カーテンの隙間から差し込んだ柔らかな朝日と目覚まし時計のアラームが、志希のまぶたと鼓膜を刺激する。

 寝起きのぼんやりした頭でアラームを切った志希は、ベッドの上で体を起こして「うーん……」と伸びをした。


 三月も中旬が近づいたとはいえ、朝はまだ冷える。温もりに満ちた布団から出ると、冷たい空気が肌を刺す。しかし、その空気の冷たさが、志希の意識を急速に覚醒させていく。

 ベッドを下りた志希がカーテンを開けると、雲一つない朝焼けの空が広がっていた。


「うん。今日もいい天気です」


 天気がいいと、気分も良くなる。志希は窓を開け、朝の空気を思い切り吸い込んだ。

 志希がブックカフェあらいぐまで暮らし始めて、今日でちょうど一週間となった。


『火事の直後だと、色々やらなきゃいけないことも多いでしょ。それに、必要なものも買い揃えないと。仕事を始めるのは来週からってことでいいから、まずは身の回りの整理をしてきなよ』


 と、荒熊さんに言ってもらったこともあり、志希はこの一週間、引っ越し作業やら何やらに追われる日々を過ごしていた。

 家事に関わる申請や請求諸々。家具や服、日用品の買い出しと運び込み。なかなかハードな一週間だった。腕なんて、まだ筋肉痛だ。


 けれど、おかげで火事の事後処理もある程度目途が立ち、新生活の準備も整えることができた。

 志希は窓を開けたまま、部屋の中を見回す。荒熊さんが貸してくれた二階の角部屋だ。ちなみにブックカフェあらいぐまは、一階が店舗で二階が住宅という造りになっている。

 一週間前まで空っぽだったこの部屋も、家具が入って少しは人が住んでいる部屋っぽくなった。と言っても、保険金が下りるまで貯金は節約しなければいけないから、あるのはベッドとガラステーブルと姿見、それと棚がいくつかというくらいだけれど。