そして桜の季節が過ぎ、新緑が青空に映えるゴールデンウィーク明け。
「荒熊さん、何しているんですか! 置いてっちゃいますよ!」
「そんなこと言われても~、お腹のぜい肉が邪魔で足が進まないんだって~」
隣の市まで遠出してきた志希は坂道を上りながら、はるか後方をよたよた歩いている荒熊さんへ呼び掛けていた。
大型連休の激務明けに、荒熊さんとふたり揃って隣の市まで出てきた理由は、他でもない。今日はこれから、祖父母の家を初めて訪問するのだ。
おかげで、志希は今朝からずっとご機嫌だ。手土産である荒熊さん特製のさくらんぼジャムと苺ジャムの瓶が入った風呂敷包みを手に、ズンズン坂道を登っていく。
そんな志希の後を追う荒熊さんは、一休みとばかりに足を止めて「ふう」と息をついた。
「ご両親~、志希ちゃんは今日も元気ですよ~。僕、置いていかれちゃいそうです~」
荒熊さんが、青く晴れ渡った空を見上げて呟く。
すると、不意に荒熊さんの上に影が差す。荒熊さんが影の方へ振り返れば、いつの間にか戻ってきたらしい志希が立っていた。その胸元では、チェーンに通されたふたつの結婚指輪がキラリと初夏の陽光を反射している。
「こんなところで立ち止まってどうしたんですか。ほら、行きますよ!」
「おっと!」
荒熊さんを抱き上げ、志希は太陽より明るい笑顔で足取り軽く、坂道を駆け上がっていった。
〈了〉
「荒熊さん、何しているんですか! 置いてっちゃいますよ!」
「そんなこと言われても~、お腹のぜい肉が邪魔で足が進まないんだって~」
隣の市まで遠出してきた志希は坂道を上りながら、はるか後方をよたよた歩いている荒熊さんへ呼び掛けていた。
大型連休の激務明けに、荒熊さんとふたり揃って隣の市まで出てきた理由は、他でもない。今日はこれから、祖父母の家を初めて訪問するのだ。
おかげで、志希は今朝からずっとご機嫌だ。手土産である荒熊さん特製のさくらんぼジャムと苺ジャムの瓶が入った風呂敷包みを手に、ズンズン坂道を登っていく。
そんな志希の後を追う荒熊さんは、一休みとばかりに足を止めて「ふう」と息をついた。
「ご両親~、志希ちゃんは今日も元気ですよ~。僕、置いていかれちゃいそうです~」
荒熊さんが、青く晴れ渡った空を見上げて呟く。
すると、不意に荒熊さんの上に影が差す。荒熊さんが影の方へ振り返れば、いつの間にか戻ってきたらしい志希が立っていた。その胸元では、チェーンに通されたふたつの結婚指輪がキラリと初夏の陽光を反射している。
「こんなところで立ち止まってどうしたんですか。ほら、行きますよ!」
「おっと!」
荒熊さんを抱き上げ、志希は太陽より明るい笑顔で足取り軽く、坂道を駆け上がっていった。
〈了〉