志希に言われて合点がいったらしい荒熊さんは、読んでいた新聞を畳んでカウンターから出てくる。


「謝る必要なんかないさ。志希ちゃんが店に残ってくれて、僕はうれしいよ。これからも、志希ちゃんのおいしいごはんが食べられるわけだしね!」


 志希の前まで来て、むしろウェルカム、と胸を張る荒熊さん。

 そんなかわいらしい店長に、志希も「食べ過ぎるとまた丸くなっちゃいますよ」と冗談めかしたことを言って笑う。何の陰りも感じさせない、すっきりとした明るい笑顔だ。

 志希の晴れやかな笑顔を喜ばしげに見上げ、荒熊さんはさらに続ける。


「それに何より、君のご両親とお祖父さんに頼まれちゃったからね。あんな真摯なお願い、縁結びの神様として聞かないわけにはいかないでしょ」


「なるほど。つまり私がこのお店にいられるのは、家族みんなのおかげでもあるわけですか。これは責任重大です。お母さんたちに胸を張れるよう、より一層頑張って幸せにならなくては!」


「その意気だ。これからも期待しているよ、看板娘二号ちゃん」


「任せてください、店長さん」


 サムズアップしてニヤリと笑う荒熊さんへ、志希は前向きさの中にほんのりと自信を滲ませて応える。

 もう過去を理由に前へ進むのを躊躇ったりしない。自分が進みたい道をまっすぐ全力で突き進む。

 両親と祖父の願いを胸に、志希は新たな一歩を踏み出した。