志希が祖父に電話を掛けてから、およそ一時間。志希と荒熊さんは、カフェのテーブル席に座っていた。電話を掛けた際、祖父が『大事な話だからね。直接会って聞かせてもらうよ』と言うので、ふたりで彼の到着を待っているのだ。

「お祖父さんの家、確か隣の市だよね。車だと、そろそろ到着する頃かな」

「そうですね。先程電話した時は、『一時間くらいで着く』と言っていましたので、そろそろかと」

 と、ふたりでそんなことを話していた時だ。
 噂をすれば影がさす。カフェの入り口が開かれて、祖父が入ってきた。

「二日連続でわざわざ足を運んでもらって、すみません」

「言い出したのは、私の方だ。君が気にすることはないよ。むしろこちらこそ、無理を言って申し訳ない」

 志希がテーブル席から立ってお辞儀をしながら出迎えると、祖父は少し困ったように笑いながら、手を振った。
 こういう時の顔は父と似ている、と志希は思った。

「いらっしゃいませ、小日向さん。すぐにコーヒーの準備をしますので、席に掛けていてください」

「お心遣い、どうもありがとうございます。では、失礼いたします」

 志希が祖父を出迎えている間にカウンターへ入った荒熊さんが、コーヒーを淹れる準備をしながら言う。
 程なくして三人分のカップがテーブルに並び、志希と荒熊さんは祖父と相対するようにテーブルについた。
 祖父は荒熊さんへもう一度礼を言ってコーヒーをブラックのまま飲み、志希へと目を向けた。