* * *


 光が治まると、そこはあらいぐまのカウンター席だった。いつも通り、現実の世界に帰ってきたのだ。


「お疲れ様、志希ちゃん。はい、コーヒー」


 荒熊さんはいつの間にかカウンターの中にいて、志希に新しく淹れたコーヒーを出してくれた。

 志希はそれを「ありがとうございます」と言って受け取り、シュガーとミルクを溶かして一口飲む。ミルクのまろやかさの奥にスッキリとした苦みを感じ、ようやく夢から覚めたという実感が湧いてきた。


「さて、志希ちゃん。どうだったかな?」


 人心地ついたところで、荒熊さんが問うてくる。

 それに対する志希は、カップをソーサーの上に置き、そっと目を閉じた。

 絵本の記憶の中で、志希は母の本音を知った。母ときちんと向き合い、謝ることができた。そして、両親が自分に託した願いも知ることができた。


 だからこそ――。


「荒熊さん……」


「うん」


「私は、本当に親不孝者です。危うく、両親の願いに気が付けないまま生きてしまうところでした」


 志希は今、曇りのない晴れやかな笑顔で、荒熊さんへそう答えることができた。


「そっか。なら、もう大丈夫だね」


「はい。私は、もう大丈夫です。ちゃんと、前へ歩いていけます。色々と、ありがとうございました」


 満足げに頷く荒熊さんへ、志希は感謝を伝える。

 そして志希はスマホを取り出し、登録しておいた番号へ――祖父の家へと電話を掛けた。


「もしもし、小日向さんのお宅で……はい、志希です。――はい、昨日はどうもありがとうございました」


 電話で相手の姿は見えないのに、ペコペコと頭を下げる志希。こういう真面目で律義なところは、変わることがないようだ。

 ちなみに、荒熊さんはそんな志希の様子を楽しげに眺めていた。

 荒熊さんに見守られる中、志希は電話の向こうの祖父へ用件を伝える。


「それで、昨日のお話についてなのですが……。――はい。私、決めました」