この町の土地神である荒熊さん的には、発見してしまった以上、志希のような存在は見過ごしておけないらしい。

 まあ、志希としてはそこが就職の決め手になったというなら、そんなとてつもない力を自分に残してくれた両親に感謝である。


「そういうことでしたら、採用してくださってありがとうございます、ということで。あと、求人広告にあった住み込みの件、可能であればお願いできないかと……。実は今朝、アパートが火事になってしまいまして、住む場所がなく……」


「うん。君ね、働く前にとりあえず御祈祷に行った方がいいと思うよ。というか、制服を着てるってことは、君、高卒だよね。親御さんはどうしてるの?」


「父は私が幼い頃に病気で亡くなっていて、母も半年前に交通事故で亡くなりました。なので、天涯孤独です」


「そうか……。辛いことを聞いちゃって、ごめんね。――あと、やっぱり今すぐお祓いしようか。というか、やらせてください」


 荒熊さんが必死に頼み込んでくるので、話を中断してその場でお祓いとやらをしてもらった。何が変わったのかよくわからなかったが、ちょっと肩が軽くなったような気がする志希だった。

 一仕事終えた荒熊さんは、「ふう……」と額の汗を拭いつつ、志希を見上げる。


「それじゃあ、話の続きをしようか。とりあえず、住み込みの件は了解。事情が事情だし、今日から住んでもらって構わないよ」


「わあ! ありがとうございます!」


 志希がパッと表情を輝かせて、深々と頭を下げる。

 そんな志希に向かって、荒熊さんはのほほんと話を続ける。


「お金についてだけど、食費は家計簿を見ながら折半ということで。家賃と光熱費はいらないから、安心してね」


「いえ、そんな! さすがにタダでお部屋をお借りするわけには……」


「うちの給料で家賃とかまでもらったら、志希ちゃんの手取りがひどいことになっちゃうからね。元々空いている部屋を貸すだけだし、気にしないでいいよ」


 志希が申し訳なさそうに口を挟むが、荒熊さんはそれをさっさと流してしまった。

 家主がこう言っている以上、無理に家賃を払うというのも何か違うだろう。