すると、そんな志希の頭を温かくて大きな手が撫でた。

「お父さん……」

 志希が顔を上げると、父が昔と同じ穏やかな顔で志希の頭を撫でていた。
 記憶の彼方から蘇ってくる懐かしい感触に、志希の涙腺がまたも緩んでいく。

「大きくなったね、志希。君の成長した姿を見られて、すごくうれしいよ」

 そう言って、父は母ごと志希のことを抱きしめた。

 ずっと忘れていた両親の温もりを感じながら、志希はもう何も言うことができないまま、ただ泣き続ける。たとえ一時の夢であっても、二度とこの温もりを忘れないように、心と体に染み込ませていく。

 だが、不意に母が「拓真、ちょっとごめん」と父へ離れるよう促した。父の温もりが消え、次いで母も志希から体を離す。
 そして、志希を正面から見つめ、こう言った。

「志希。あんたは、もう私たちのことで悩まなくていい。負い目を感じる必要もない。だからその分、幸せになりなさい。あんたが笑ってくれていることが、私と拓真の願いだから」

 自分の言うべきことを言い終えた母は、コツンと自分の額を志希の額に当ててくる。
 母が生きていた時はよくこうしてもらったと、志希は目をつぶりながら思う。母と額を合わせていると、どんなに悲しいことや辛いことがあった時でも、すぐ心が楽になるのだ。

「……はい。もう私、負い目に逃げたりしません。お母さんたちの願い、きっと叶えます」

 だから今も、志希は心安らかなまま、素直に母へ答えることができた。