驚きで目を見開いた志希が振り返ると同時に、またも風景が変わる。そこはもはやアパートの一室ではなく、ただの白い空間だった。
 そして、振り向いた志希から少し離れた場所、白い空間に佇む一組の男女が――。

「……お母さん、お父さん」

 志希は呆然としながら、ふたりに向かって呼び掛ける。
 そう。そこには、志希を温かな眼差しで見つめる両親がいた。

「荒熊さん、これは……」

「まあ、神様からのサービスということで」

 志希が問うと、荒熊さんはウィンクしながら応じた。
 どうやら荒熊さんは、志希の霊力を対価としてもらうことなく奇跡を起こしてくれたらしい。言葉通り、志希への“サービス”として。

「二人は今の状況をわかっている。行っておいで」

 飛び跳ねた荒熊さんに背中を押され、志希はつんのめるように前へと足を踏み出す。
 しかしそこからは、自分の意思で足を前へと進めていく。

「お母さん、お父さん……」

 ふたりのことを呼びながら、志希はついに駆け出す。
 そして、腕を広げて待つ母の胸に飛び込んだ。

「お母さん、ごめんなさい! 私、ずっと『お母さんに捨てられたらどうしよう』って不安に思っていました。お母さんは、こんなに私のことを大事に思ってくれていたのに……。本当にごめんなさい!」

「気にしなくていいよ。むしろ、私の方こそごめん。私がしっかりしていなかった所為で、不安にさせちゃって」

 母の肩に顔をうずめるようにして志希がこれまで抱えてきた思いを伝えると、母も志希の背中をポンポンと優しく叩きながらそれを受け入れる。