『……ねえ、拓真。私、ちゃんと志希の母親、できてたかな?』


 父の遺影を見つめ、母は自信なさげな声音で問い掛ける。

 そんな母の言葉を、志希は胸を締め付けられるような思いで聞く。


『志希はね、すごく“いい子”に育ってくれた。本当に私の子かってくらい、優しい子でさ……。でも、ちょっと“いい子”過ぎるよ』


 母は、志希の前で遺影の中の父に語り掛け続ける。


『あの子、あんたが死んでから、我が儘ひとつ言わなくなっちゃってさ……。たぶんそれって、私がそうさせちゃったんだと思うんだよね。私が不甲斐ないから、志希を甘えさせてあげられなかった。志希に悪いことしちゃったよ』


「そんなことないです! お母さんは、悪くないです。私が勝手に殻に閉じこもっていただけ。謝らないといけないのは――悪いのは、私の方……」


 志希はもう黙っていられなかった。聞こえないとわかっていても、志希は泣きじゃくりながら記憶の中の母に訴えかける。


『ねえ、拓真。私は――志希を幸せにしてあげられたのかな?』


「幸せでした。お母さんがいてくれて、本当に幸せでした! 私は、お母さんの子供で、本当によかったです!」


 母の問いにどうにか答えようと――自分の気持ちを伝えようと、志希が叫ぶ。

 すると、その時だ。


「――そっか。よかった」


 志希の叫びに応じる声があった。