『志希、ごめんね。本当にごめん!』

 そんな幼い志希のことをさらに強く抱きしめ、母は謝罪の言葉を重ねる。

『志希、安心しなさい。あんたを、もうこれ以上不安にはさせないから。あんたのことは、私がずっと守るから!』

 そして、まるで自分自身にも誓うように、母は幼い志希に約束する。
 そんな母の背中を、志希は呆然としたまま見つめる。

「荒熊さん……」

「うん」

「私、なんでこんな大事なことを忘れていたんでしょう。お母さん、きちんと謝ってくれていたのに……。勝手に不安がって……」

 気が付けば、志希の目からは涙が溢れていた。
 答えは出た、と理性よりも先に感情の方が志希に告げてくる。

「まあ、それだけお母さんの『一人にして』発言が衝撃的だったってことだろうね。それにこのちび志希ちゃん、完全に寝ぼけ眼だし、覚えていなかったのも仕方ないよ」

 荒熊さんは、いつもの軽い調子で志希のことを励ます。
 変にこちらへ気を使わないところが荒熊さんらしく、それ故に志希も「そうかもしれませんね」と素直に答えることができる。

 そして絵本の記憶再生は続き、場面はどんどん移り変わっていく。

 保育園の卒園式の日。幼い志希は母と手をつないで、うれしそうに出掛けていった。

 新しい家への引っ越し。新しい家で、必死に荷物を運ぶ幼い志希のことを、母は『偉いぞ、志希!』と頭を撫でながら褒めていた。

 小学校の入学式。母は、入学式のために着飾った幼い志希の写真を撮りまくっていた。

 少し時間が飛んで中学校の入学式前日。成長した志希が卸し立ての制服を着て姿見の前に立っていると、後ろに現れた母が『かわいいじゃん!』と太鼓判を捺してくれた。

 高校の合格発表の日。家に帰った志希がメールで合格を伝えると、母は仕事を早退して帰ってきて、志希を見るなり『よくやった!』と抱きしめた。