どうやら志希があれこれ考えている間に、記憶の場面が変わっていたらしい。いつの間にか、部屋には朝日が差し込み始めていた。日付も表示されているデジタル時計を見れば、どうやら葬式の翌朝に飛んだようだ。

『旦那が死んだショックでネグレクト? ふざけんな! 志希だって私と同じくらい悲しくて不安なんだぞ。それなのに志希を突き放すってバカか、私は! しかもすぐに謝りもしないとか、親失格じゃんか!』

 居間には、幼い志希に吐いてしまった言葉を後悔して頭を掻きむしる母の姿があった。
 そこには、もう昨晩の弱さは見られない。盛大に後悔して自己嫌悪しているが、その顔からはいつもの母の強さと優しさが感じられた。

「時間が経ったことで、お母さんも少し冷静になったんだろうね。そのおかげで、自分が志希ちゃんに言ってしまったことを顧みる余裕ができたんじゃないかな」

 荒熊さんが、失言に苦悩する母を柔らかな表情で見つめながら言う。

『――って、悩んでる場合じゃない! 志希? 志希、どこ?』

 ハッとした様子で、母は腰を上げながら辺りを見回す。そして、幼い志希が隣の部屋にいるのを見つけ、急いで駆け寄った。
 幼い志希は、絵を描くことと泣くことに疲れたのだろう。家族三人の姿が描かれた画用紙の前で眠っていた。
 母はその絵を見つめて涙ぐみ、すぐに幼い志希を抱き上げてギュッと抱きしめた。

『おかーさん……?』

 抱きしめられたことで、目が覚めたのだろう。ぼんやりと目を開けた幼い志希が、反射的な行動なのか母にしがみつく。