確かに志希は、過去の自分の行いをずっと否定し続けてきた。それはつまり、自分自身の過去を認めず、否定する材料だけを取捨選択して集め続けてきたということでもある。母の本音を知るために絵本の記憶を紐解いておきながら、過去の自分からは目を逸らしたままだったのだ。


 自分自身に目を向ける勇気もない人間が、自分以外の人間の気持ちを知りたいなんて、おこがましいにも程があるというものだろう。

 自分が真っ先にするべきだったのは、過去の自分を認めること。自己弁護するためではなく、自分を正しく理解するために、過去の過ちだけでなく頑張りにも目を向けなければならなかったのだ。

 そうでなきゃ、母の本音を知っても素直に受け止めることはできないだろう。『母の本音を知った上で謝りたい』なんて願いは、文字通り夢のまた夢だ。


「荒熊さん、ありがとうございます。私、ようやく目が覚めました」


 志希が、幾分すっきりした表情で荒熊さんへ礼を言う。

 すると荒熊さんは、「気にしないで」と志希に微笑みかけた。


「志希ちゃんがそれに気付いてくれたなら、僕が一緒に来た意味もあったってことだからね。――それに見なよ。どうやら早速、志希ちゃんの知らなかった真実があったみたいだよ」


 荒熊さんが言うと同時に、居間の方から『私は何をやってんだ!』という叫びが聞こえてきた。