* * *


 そして約一時間後――。


「ごめんなさい、ごめんなさい! 私、ドッキリだなんてまったく気付かずに、あんなひどいことを……。本当にごめんなさい」


 志希は目を覚ました荒熊さんに、延々と何度も頭を下げて謝り続けていた。


「あ~、うん。もういいから。ほら、悪ふざけしたのは僕の方だしね。そんなに謝られると、むしろ僕の方が心が痛いというか、何というか……」


 一方の荒熊さんも、居心地が悪そうに謝り続ける志希を宥めている。そもそもの原因が自分の仕掛けたドッキリとあって、謝られ続けていることに良心の呵責を感じているらしい。


 なお、一時間前はたんこぶだらけであった荒熊さんだが、今はすっかり元通りに回復してしまっていた。頑丈さも含め、さすがは神様といったところだろう。


「ところでさ、結局志希ちゃんは、どうしてこの店に来たのかな。お客さんじゃないんだよね」


 さすがにこれ以上謝られるのは精神衛生上よろしくない、と判断したのだろう。荒熊さんが、話題を逸らしにかかる。

 それに見事に引っかかった志希は、「そうでした!」と大事なことを思い出した様子で顔を上げた。


「私、外に貼ってあった求人広告の件で来たんです。雇ってもらえないかと思いまして」


「あ~、あれね。志希ちゃん、お仕事を探しているの?」


「お恥ずかしい話ですが、実は昨日、就職するはずだった会社から内定取り消しの連絡を受けてしまいまして……」


「そっか、大変だったね……。――うん、いいよ。雇ってあげる」


 事情を説明する志希に向かって、あっさりと採用を告げる荒熊さん。

 さすがに志希も、ここまであっさり採用されてしまうとは思っておらず、面食らった様子で荒熊さんを見つめた。


「ええと、いいんですか? 私、面接とか、まだ何もしてもらっていませんけど……」


「別にいいよ。君、おもしろいし。それに、君みたいな霊力の強い子、野放しにしておくのも危なっかしいしね」