幼い志希は、はしゃぎながら誕生日プレゼントを受け取ると、そのまま景気よくラッピングをビリビリ剥がし始める。

 そして――中から出てきた絵本に目を輝かせ、歓声を上げながら部屋の中を駆け出した。今の志希からは考えられない喜びの表現である。


『志希、ごはん中に飛び回らないの。座りなさい』


 母に首根っこを押さえられた幼い志希が子猫のように持ち上げられ、ちょこんと座らせられた。

 ただ、幼い志希はそれでも上機嫌でプレゼントの絵本を抱きしめ、頬ずりまでしている。幼い頃の自分を見ているとはいえ、その姿には志希も少し和んだ。


『志希、プレゼント、うれしかったかい?』


『うん! ありがと、おとーさん、おかーさん!』


 父が問いかけると、志希は満面の笑顔で体全体を使って頷く。


『なあ、志希。志希は、その絵本のどこが好きなのかな?』


『みんな、なかよしなところ! てぶくろのなかでギュウギュウになって、みんなたのしそうなの!』


 幼い志希は絵本を開いて、父へ楽しげに絵本の内容を解説していく。父もそれを楽しげに聞きながら、『そっか。確かに楽しそうだ』と言って志希の頭を撫でた。


『ちょっとちょっと! ふたりだけで楽しんで、ずるいじゃない。私も混ぜて!』


 そこに母も加わって、正に絵本に出てくる手袋の中と同じおしくらまんじゅう状態だ。それがなお楽しかったのか、幼い志希はケラケラと笑っている。

 おそらくこの頃が、志希にとって一番幸せな時期だっただろう。この時は、一年後に起こることなんて、まったく想像していなかった。