そんなことを考えていると、急に周囲の風景が変わった。今度は、志希が保育園卒園まで住んでいた家だ。

 居間のテーブルの上には、ホールのケーキや志希の好きな食べ物が所狭しと並んでいる。


『志希、誕生日おめでとう』


『ありがとう、おとーさん!』


『ほら志希、ケーキのロウソクの火、フーッて消して』


『うん!』


 両親に見守られながら、幼い志希はテーブルに身を乗り出すようにして、ロウソクの火を吹き消す。

 一回では吹き消せず、二回、三回と息を吹きかけると、ようやく四本のロウソクから火が消えた。

 同時に、父と母がパチパチと拍手をする。火を消した志希は、まるで大きな仕事をしたかのように胸を張って、得意げな顔をしていた。


「昔の志希ちゃん、かわいいね。超ドヤ顔」


「……言わないでください。正直に言いますと、私、そろそろ心が折れそうです」


 肩を震わせて笑い出すのに耐えている荒熊さんへ、志希は重い声で応じる。

 先程の果物の絵本の話に、今のドヤ顔。公開処刑もいいところである。この絵本の記憶は、本筋とまったく関係ない部分で志希の心をへし折っていく。

 とまあ、そんな余談は置いておくとして、記憶の中では父がラッピングされた絵本を幼い志希へ差し出していた。


『はい、志希。誕生日プレゼント』


『プレゼント!? やった!!』