『そっか……。まあ、愛希さんが言うなら、間違いないんだろうね』


『まったく、あんたはいつも私に合わせるばっかりなんだから……。たまには一家の大黒柱として、ビシッと決められないものかしらね』


『いや~、愛希さんがあまりにも頼りになるんで、ついね』


『本当にもう、いつもそればっか』


 困ったように笑う父を、母は仕方ないと言いたげな笑みで見つめる。口では小言を言いつつも、その笑みには父に対する確かな信頼と愛情が感じられた。


『ほら、もう行くよ。そろそろ、保育園のお迎えの時間だから』


『了解。今日は、僕も一緒に行くよ』


『おう、こいこい。志希もその方が喜ぶし』


 絵本を持っていない方の手で父の背中を叩き、母はレジの方へ向かう。

 志希は、そんな二人の背中を見送る。


「仲のいいご両親だね」


「……はい。お母さんとお父さんは、とても仲良しさんでした」


 唐突に現れた荒熊さんへ、志希は驚いた様子も見せずに答える。

 どこかにいるのはわかっていたのだから、驚くほどのことではない。