ただまあ、印象の違いなんて結局のところはどうでもよくて、父と母がそこで笑っているというだけで、志希は涙が溢れそうになってきた。
 そんな志希の眼前で、ふたりは絵本を見ながら真剣な表情になって話し合い始める。

『でも愛希さん、本当に誕生日プレゼントが絵本でいいのかな。志希は外で遊ぶのが好きだし、ボールとかの方がいいんじゃない?』

『私も最初はその方がいいかなって思ったんだけどさ。でも、あの子最近、やたらとこの絵本の話をするのよ。保育園で呼んでもらったって、うれしそうにさ』

『へえ、今まで絵本なんて興味持たなかったのに……』

『でも、前に果物の絵本を見せた時は、よだれ垂らして目を輝かせてたわよ』

『それ、絵本が気に入ったんじゃなくて、単にお腹が空いていただけじゃない』

『そうとも言うわね』

 真剣に志希へのプレゼントを吟味していたかと思ったら、母がとんでもないことを口走り始めた。
 志希としては、恥ずかしい限りだ。顔を真っ赤にして「あわわ!」と言いながら母の口を塞ごうとするが、まるでホログラムのようにすり抜けてしまった。今回は単なる記憶の再生だから、こういう仕様らしい。

『でも、この絵本は違う。余程気に入ったんだと思うのよね』

 ただ、不意に母が優しい目になって絵本を見つめた。
 それは、いつも母が志希に向けてくれていた目だ。恥ずかしがっていたことも忘れ、志希は思わず呆けてしまう。