* * *
白い光が、志希の体を包み込み。本の記憶に入り込む時の光だ。
これで三度目になる現象だが、いまだに慣れることができない。まぶた越しでも眩い光に目を焼かれながら、志希は視界が回復するのを待つ。
そうして見えてきたのは、本が所狭しと並ぶ空間――書店の中だった。
「ここは……」
見覚えのある書店に、志希はキョロキョロと辺りを見回す。今はつぶれてしまったが、小さい頃に家の近くにあった書店だ。
志希の胸の内に、懐かしさが込み上げてくる。小さい頃は、保育園の帰りに母とよく立ち寄ったものだ。母が読んでいた料理雑誌を見せてもらって、ふたりで『これ、おいしそう!』なんて言いながら笑い合った。
と、志希がそんな古い記憶を思い出していた時だ。
『ああ、あった! これだ、これだ』
忘れるはずのない声が、志希の鼓膜を震わせた。
慌てて声のした方を振り返る志希。そこには、絵本を手に、満面の笑みを浮かべる母がいた。
……いや、母だけではない。
『愛希さん、見つかったの?』
『うん、あった。ほら、これ』
母の声を聞きつけて、在りし日の父も合流してくる。
十三年ぶりに聞く父の声。笑って話す父の姿。
幼い頃のこと過ぎて忘れかけていた記憶が、一気に蘇ってくる。そう――確かに父はこんな声で、こんな風に話していた。そして、ただひとつだけおぼろげな記憶と違う印象なのは、意外と背が低いこと。当時は志希自身が小さかったこともあって、父はとても大きな体という印象だったのだ。
白い光が、志希の体を包み込み。本の記憶に入り込む時の光だ。
これで三度目になる現象だが、いまだに慣れることができない。まぶた越しでも眩い光に目を焼かれながら、志希は視界が回復するのを待つ。
そうして見えてきたのは、本が所狭しと並ぶ空間――書店の中だった。
「ここは……」
見覚えのある書店に、志希はキョロキョロと辺りを見回す。今はつぶれてしまったが、小さい頃に家の近くにあった書店だ。
志希の胸の内に、懐かしさが込み上げてくる。小さい頃は、保育園の帰りに母とよく立ち寄ったものだ。母が読んでいた料理雑誌を見せてもらって、ふたりで『これ、おいしそう!』なんて言いながら笑い合った。
と、志希がそんな古い記憶を思い出していた時だ。
『ああ、あった! これだ、これだ』
忘れるはずのない声が、志希の鼓膜を震わせた。
慌てて声のした方を振り返る志希。そこには、絵本を手に、満面の笑みを浮かべる母がいた。
……いや、母だけではない。
『愛希さん、見つかったの?』
『うん、あった。ほら、これ』
母の声を聞きつけて、在りし日の父も合流してくる。
十三年ぶりに聞く父の声。笑って話す父の姿。
幼い頃のこと過ぎて忘れかけていた記憶が、一気に蘇ってくる。そう――確かに父はこんな声で、こんな風に話していた。そして、ただひとつだけおぼろげな記憶と違う印象なのは、意外と背が低いこと。当時は志希自身が小さかったこともあって、父はとても大きな体という印象だったのだ。