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 白い光が、志希の体を包み込み。本の記憶に入り込む時の光だ。
 これで三度目になる現象だが、いまだに慣れることができない。まぶた越しでも眩い光に目を焼かれながら、志希は視界が回復するのを待つ。
 そうして見えてきたのは、本が所狭しと並ぶ空間――書店の中だった。

「ここは……」

 見覚えのある書店に、志希はキョロキョロと辺りを見回す。今はつぶれてしまったが、小さい頃に家の近くにあった書店だ。
 志希の胸の内に、懐かしさが込み上げてくる。小さい頃は、保育園の帰りに母とよく立ち寄ったものだ。母が読んでいた料理雑誌を見せてもらって、ふたりで『これ、おいしそう!』なんて言いながら笑い合った。
 と、志希がそんな古い記憶を思い出していた時だ。

『ああ、あった! これだ、これだ』

 忘れるはずのない声が、志希の鼓膜を震わせた。
 慌てて声のした方を振り返る志希。そこには、絵本を手に、満面の笑みを浮かべる母がいた。
 ……いや、母だけではない。

『愛希さん、見つかったの?』

『うん、あった。ほら、これ』

 母の声を聞きつけて、在りし日の父も合流してくる。

 十三年ぶりに聞く父の声。笑って話す父の姿。
 幼い頃のこと過ぎて忘れかけていた記憶が、一気に蘇ってくる。そう――確かに父はこんな声で、こんな風に話していた。そして、ただひとつだけおぼろげな記憶と違う印象なのは、意外と背が低いこと。当時は志希自身が小さかったこともあって、父はとても大きな体という印象だったのだ。