荒熊さんに言われ、志希がハッとした様子で目を見開く。


 今まで志希が経験してきた二回とも、記憶へ干渉することを前提としていたので忘れていた。

 そう。荒熊さんが一人分のお供え物で引き起こす奇跡は、『本が蓄えた記憶を見せる』というものなのだ。これまで記憶に干渉できていたのは、そこに志希が自分の霊力をお供えすることで、奇跡に奇跡を上乗せしていたからに過ぎない。


 つまりこれなら……。


「お母さんの、本当の気持ちが見えてくる」


 志希の呟きに、荒熊さんがコクリと頷いた。

 過去に起こったことを覗くだけならば、母が志希に気を使うことはない。そこにあるのは、偽りない過去の事実となる。であれば、どんな真実が待っているとしても、それを見た志希はもう納得するしかない。

 荒熊さんは、本当に志希を納得させられる方策を用意してくれていたのだ。


「もちろん、本が記憶していた真実が君にとって優しいものである保証はない。それどころか、君のお母さんは本当に君を捨てたがっていた、なんて事実まで出てきてしまうかもしれない。それでもよければだけど――」


「行きます!」


 荒熊さんが言い切るよりも先に、志希は決意の言葉を口にした。

 ただ、志希の体は微かに震えている。ずっと望んでいたこととはいえ、いざ真実を知ることができるとわかった瞬間、志希は“知る”ことを恐れてしまったのだ。