「あの後ね、僕も考えてみたんだ。でもさ、正直なところ僕がどれだけ『お母さんはきっと心から志希ちゃんを大事に思っていた。だから、志希ちゃんも前を向いていこう』って言っても、志希ちゃんの気休めにもならないと思うんだよね。任せてって大見え切っておきながら、情けない話だけど」


「そんなことは……」


 志希は咄嗟に首を横に振る。

 だが、志希自身も口には出さなかっただけで、荒熊さんの言う通りだと思っていた。


 結局のところ、これは志希自身が納得する答えを得ないことには解決しない問題なのだから……。やはりこの問題は、神様である荒熊さんをもってしてもどうしようもないということなのだろう。

 残念に思う反面、心のどこかで安心もしてしまう。やはり罪を背負って生きていくのが正しいのだという思いが、仄暗い安堵を招いているのだ。


 ただ、荒熊さんの話はそこで終わらない。


「かといって、君をこのまま罪の意識の中で生きていかせるわけにもいかないじゃない。だから――やっぱり真実を見にいこう」


「それはつまりは、やっぱりあの絵本の記憶に入ろうということですよね。でも、昨日も言った通り、仮にお母さんと話したとしても、私は……」


 志希は、昨日と同じ回答を繰り返そうとする。

 しかし、その前に荒熊さんが言葉を継いだ。


「そうだね、そこは志希ちゃんの言う通りだ。だから今回は、源内さんや明日香ちゃんたちの時のように、志希ちゃんの霊力を使って本の記憶へ干渉できるようにはしない。純粋に、本の記憶を再生するだけにする。――これなら、少しは真実が見えてくるんじゃないかな」