荒熊さんと一緒にカフェへと降りてきた志希は、荒熊さんに促されるままカウンター席へと座った。


 一度泣き叫んだ所為か、今は心が妙にフラットだ。おかげで、子供のように荒熊さんへ当たってしまったことが、恥ずかしくて仕方ない。

 志希がそんなことを思いながら、カウンターテーブルをじっと見つめていると、温かで甘い湯気が鼻腔をくすぐった。


「はい、どうぞ。特製ココア。甘くて温かくて、飲んだら心が落ち着くよ」


「あ……ええと、ありがとう……ございます」


 ぺこりとお辞儀をし、おずおずとココアが入ったカップを受け取る。

 温かなココアを一口啜ると柔らかな甘さが口いっぱいに広がって、確かに心が少し落ち着いた。

 すると、志希の表情が和らいだのを見て取ったのか、荒熊さんが口を開いた。


「さっきは言いそびれていたけど、満男さんが来てくれて本当によかったね。まだ君には家族がいたんだ。おめでとう、志希ちゃん」


「……はい。両親は駆け落ちして結婚したと聞いていたので、お祖父さんが来てくれたのは本当にうれしかったです。しかも、『うちに来なさい』とまで言ってもらえて……。私は本当に幸せ者です」