志希がそんなことを考えていると、荒熊さんが話はおしまいとでもいうように小さなかわいらしい手を叩いた。

「さてと! 僕の自己紹介は、これにて終わりってことでいいかな?」

「え? ええ、まあ……はい」

「そっか、そっか。それじゃあ、志希ちゃんの方から他に質問はある?」

「いえ、特には……」

「うんうん、了解。それじゃあ、冥途の土産も渡し終えたということで――今度こそ本当に消えてもらおうか」

「はあ、そうですか……。――って、はい!?」

 話の流れで思わず頷いてしまいそうになったが、突然の死刑(?)宣告に志希が目を見開く。
 そんな驚きを隠せない志希に対し、荒熊さんはピョンと椅子から飛び降り、ゆらりと怪しい歩調で歩み寄る。そして、どこか物悲しい視線を志希に向け――。

「ごめんね。神様という正体を知られたからには、仕方ない処置なんだ」

「自分から勝手に自己紹介したのに!?」

 両手を後ろ手に組み、残念そうに首を振る荒熊さんに対して、志希が泡を食って叫ぶ。
 こちらのリアクションを楽しみに嬉々として「土地神様です!」と明かしてきたくせに、理不尽極まりない。

 しかし、そこは神様。たかだか人間の小娘ひとりの言葉なんて、聞く耳持たないらしい。というか、物理的に三角のお耳をパタッと畳んでいた。

「安心しなさい。せめて苦しまないように、すぐ楽にしてあげるから」

 志希の足元に到達した荒熊さんは、志希を見上げながら落ち着いた口調でそう宣う。
 そんな荒熊さんの体からは、得も言われぬ威圧が放たれ始めていた。