「それよりも、バーの方はどうしたのですか? まだこの時間は、営業中のはずですよね」


「そっちは臨時休業にしたよ。お客さんも来ていなかったし、たまにはいいでしょ」


 志希の問い掛けに、荒熊さんがのほほんと答える。

 だが、志希はわかっていた。荒熊さんがどうしていきなり店を臨時休業にしたのか、その理由が……。


「そんなことよりもさ、志希ちゃん」


「はい。なんでしょうか」


「一人で抱え切れないことがあるのなら、相談してくれていいんだよ。縁結びの神様は、その為にいるんだから」


 荒熊さんが、穏やかに微笑む。

 やはり、思った通りだった。荒熊さんは、志希が抱えている問題を解決するために、店を休みにしてきてくれたのだ。おそらくは、志希が何の憂いもなく祖父からの申し出の答えを考えられるように、と気遣ってくれたのだろう。

 その優しさが、志希の壊れかけた心に沁み渡る。


 ただ、それでも――。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。これは私が抱え続けなければいけないものですから。心配ご無用です」


 志希は、荒熊さんが差し出してくれた手を拒んだ。なぜなら、自分には荒熊さんに助けてもらう資格なんてないから。

 助けを拒む志希に、荒熊さんはおもしろいものを見るような顔をする。


「ほほう、なるほどね。そうきたか。僕も神様をやって半世紀になるけど、救いの手を拒絶されたのは初めてだよ」


「せっかくのご厚意を無碍(むげ)にして、ごめんなさい。でも、これについては気になさらないでください」


「うん、やだ」


 今度は、荒熊さんから関わらないことを拒否された。

 さすがにこの返答は予想しておらず、志希は思わずきょとんとしてしまう。

 すると、そんな志希に向かって、荒熊さんは腰に手を当て、胸を張ってこう宣った。