遺影の中の両親は、相変わらず温かな笑顔を浮かべていた。しかし、写真は何も語ってくれはしない。罪を懺悔させてくれることもなければ、謝らせてくれることもない。当然、許してくれることもない。


 いや、許してほしいというのは、志希の甘えなのかもしれない。


 志希は、本棚から絵本を取り出した。

 幼い頃に、両親がプレゼントしてくれた絵本。志希にとって、両親との思い出が詰まった宝物だ。

 そんな絵本を今日も胸に抱き、志希はぺたんと床にへたり込む。


「お母さん……。お母さんは私がしでかしたことを知っていたら、それでもお祖父さんたちへ手紙を出してくれていましたか?」


 涙声になりながら、志希はここにいない母へと問う。

 すると――母の代わりに答える声があった。


「……志希ちゃん」


 突然の声に驚きつつ、志希は後ろへ振り返る。

 声が聞こえたのは、部屋の入口の方。そこには、荒熊さんがちょこんと立っていた。


「ごめんね。一応ノックはしたんだけど、返事がなかったから……」


「いえ、こちらこそすみません。まったく気が付かずに……」


 袖で溢れかけた涙を拭い、志希は荒熊さんへ微笑みかける。