祖父が伸びた背筋で腰を折り、荒熊さんへ深々と一礼をする。その見事な所作からは、荒熊さんへの敬意と感謝が溢れていた。

 本当にこの祖父は、自分のことをただ案じてここまで来てくれた。その事実が、ここからも伝わってくる。そんな祖父の姿に、志希の胸の中がじんわりと温まった。
 ただ、胸が温まるほどに、志希の心を満たしてくるものがある。それは――拭い切ることのできない罪悪感だ。

「では、本当にこれで」

 最後にもう一度会釈をし、今度こそ祖父は店から去っていった。

「お祖父さん、いい人だったね。きっと志希ちゃんのこと、必死に探したんじゃないかな。最初にこの店に来た時、志希ちゃんが元気そうだとわかって、すごく安心した顔をしていたし」

「はい。さっき笑ってくださった時も、お父さんの面影を感じました」

「神主さんってことだったけど、志希ちゃんのバカでかい霊力は、お父さんの家系由来みたいだね」

「ええ、驚きの新事実ですね。もしかしたら顔に出さなかっただけで、お祖父さんも荒熊さんのことを神様と認識していたかもしれませんね」

 荒熊さんと一緒に祖父が去っていったドアを見つめながら、ちょっと冗談混じりに言葉を交わす。
 ただ、口調の軽さとは裏腹に志希の心内は複雑で、表情は優れない。
 すると荒熊さんが、「志希ちゃん」と気遣うように呼び掛けた。

「僕はね、満男さんと一緒で、志希ちゃんに幸せになってほしいと思っている。だから、志希ちゃんがどんな決断をしても、僕はそれを支持するよ」

「…………。……ありがとうございます」

 今の志希には、そう返事をすることしかできなかった。