「こちらも『今すぐに決めろ』と言うつもりはない。それに、君には今の生活もある。自分の幸せを第一に、ゆっくり考えればいい。これは、うちの電話番号だ。どうするか答えが決まったら、掛けてきなさい」

「はい……。ええと、ありがとう……ございます」

 志希が電話番号の書かれたメモを受け取って頭を下げると、祖父は優しい笑顔でひとつ頷いた。
 その表情に父親の面影を感じ、志希はもう一度目を見張る。この人は本当に自分の祖父なのだと、唐突に実感できた。

「それでは、あまり長居をしても迷惑だろうから、私はこれで。コーヒー、本当においしかった。お代はいくらかな」

「いえ。閉店後ですし、今回は結構です」

 席を立った祖父に対し、荒熊さんは笑顔でお代を辞した。
 今の荒熊さんからは、先程までの緊張感が見られない。神様として、祖父への警戒を解いたということだろう。つまり、荒熊さんから見ても、祖父からは志希を害しようとする意思は感じられないということだ。

「では、お言葉に甘えて。ああ、それと、荒熊さんと言いましたかな」

「ええ、小粋なカフェ店主の荒熊です」

「私が言えた立場ではありませんが……志希の居場所を作ってくださり、本当にありがとうございます」