「愛希さんは実家から勘当されていたと聞く。それで、私たち宛に出したのだろうね。ただ、その友人の方が失念していたらしくて、半年遅れで受け取る形になってしまったが……。遺言書と一緒に、その友人からの謝罪の手紙も入っていたよ」

 祖父に「開けてみなさい」と促され、志希は封筒を開ける。中には、便せんが一枚だけ入っていた。折りたたまれたそれを開いてみると、そこには母の字で、このように書かれていた。

【今さらお義父さんとお義母さんに頼れた義理もありませんが、私にもしものことがあった時は、志希のことを助けてあげてください。どうかお願いいたします】

 手紙の文章をジッと見つめ、志希は「お母さん……」と呟く。母がこんな手紙を残していたなんて、今の今まで全く知らなかった。

「家内とも相談してね、私たちは祖父母として君の助けにはなってあげたいと思う。君からしたら『今さら何を?』といったところかもしれないが、考えてみてほしい」

 手紙を見つめる志希に向かって、祖父はそう語り掛ける。
 驚きに志希が顔を上げると、祖父は真剣な面持ちで彼女の目を見つめ、「もし……」とさらに言葉を続けた。

「もし君にその気があるのなら、うちに来なさい。高卒で働き始めたようだが、もし大学へ行きたければ行かせてやることもできる。そのくらいの蓄えは、うちにもあるからな」

「あの、急にそんなお話をいただいても……」

 突然降って湧いた申し出に、志希は慌てるばかりだ。何と答えていいかわからずに、頭を混乱させてしまう。
 すると祖父の方も、「もちろんわかっている」と志希を落ち着かせるように柔らかい眼差しで同意した。