「志希ちゃん、どうかした? このお客さんはお知り合い?」

「あ、ええと、そうみたいなのですが……」

 向こうは明らかにこちらを知っているみたいだが、志希としてはまったく覚えがないので言い淀む。
 その間に、お爺さんの方が荒熊さんへ声を掛けた。

「あなたが、こちらの店長さんですか?」

「ええ、そうです。失礼ですが、うちの店員とどのようなご関係で?」

 やや警戒する気配を放ちながら、荒熊さんがお爺さんへ問い返す。
 するとお爺さんは、「ああ、これは失礼」と懐から名刺を取り出して、荒熊さんへ差し出した。

「名乗るのが遅れてしまい、申し訳ない。私は、小日向満男(みつお)と申します」

 荒熊さんが受け取った名刺を、志希も一緒になってのぞき込む。そこには確かに、今名乗った通りの名前が記されている。ついでに、神社の名前も。どうやらこのお爺さんは神主らしい。
 そしてお爺さん――満男は、さらにもうひとつ、志希にとって重要な事実を明かした。

「私は、そこにいる志希さんの父方の祖父にあたります。今日は、志希さんに話があって参りました」