「おもしろいほどあっさり集まっちゃうもんなんだね~。運命が動き出したって感じ? おれは長江理仁。青龍ちゃんのおっしゃるとおり、朱雀だよ」
「安豊寺鈴蘭です。こっちは、同じクラスの平井さよ子。わたしにチカラがあることにすぐ気付いて、何か困ったことがあったら頼ってほしいって、友達になってくれたんです。さよ子も宝珠を預かる家系の子だから」
「その宝珠って、四獣珠じゃない別系統のやつだよね?」
 おれの確認に、さよ子はうなずいた。
「うちのパパのは、四聖獣と直接は関係のない宝珠です。宝珠には、すごくたくさんの種類があるんですよね。陰陽とか、四方とか、五行とか、十干とか、十二支とか、二十八宿とか。それで、均衡し合う母数が大きいほどチカラが弱くなる」
【そーいうこと。おれらの四獣珠は四で均衡してるから、けっこうランクが高いんだよね。そのぶん、宝珠が起こせる奇跡の規模がデカいし、おれら預かり手のチカラも強い。四獣珠より上にあるのは陰陽の二極珠くらいなもんだって、うちの古文書に載ってた】
 鈴蘭は緊張の面持ちだった。胸のあたりでギュッと手を握る。
「長江先輩、ご存じですか? 瑪都流《バァトル》の煥先輩もチカラを持っているみたいなんですけど、四獣珠だと思うんです。煥先輩を見ると、青獣珠がドキドキして騒ぐのがわかるから。でも、わたし、直接には確認できてなくて」
「何でそう自信なさげなの? おれの朱獣珠は、すぐわかったんでしょ?」
 鈴蘭の頬が、パッと真っ赤になった。
「だ、だって、このドキドキは青獣珠のものだと思うんですけど、ひょっとしたらわたし自身かもしれないって気になってしまって、それに、何て声をかけたらいいのかなって、えっと……」
「要するに、あっきーがカッコよすぎて声かけらんないわけだ」
「あ、あっきー?」
「おれはさっき話してきたよ~。もともと、あっきーのにいさんの文徳と仲いいからね。軽音部室は関係者以外キープアウトだけど、特別に入れてもらっちゃってさ」
 その瞬間、さよ子と鈴蘭の声がハモった。
「ずるい!」
 ふーん。あっそう。
 この時間帯にこの先に行っても、瑪都流の軽音部室しか、使われてる教室がないんだよね。何でこの子らがいるのかなって思ったんだけど、煥がお目当てだったのか。
 つーか、さっきさよ子が言ってた「好きな人がいる」って、煥のこと? 煥って、おれとは正反対なタイプじゃん。脈なしすぎて笑える。
 おれはことさら、へらへらと頬を緩めてみせた。
「四獣珠の件、あっきーで間違いないよ~。あの銀髪のイメージどおり、白虎だ。しっかし、あっきーって、うらやましいくらいのイケメンだよね。モテるんだろなー。妬けるなー」
 さよ子が勢い込んで、おれに顔を近付けた。
「男の人から見ても魅力的な男の人って、本物って感じですよね! 煥先輩って超カッコいいですよねっ!」
 そういや、さよ子、ずっこけて廊下に座ったままじゃん。体、冷えるよ。
 おれはさよ子に手を差し出した。
「あっきーもカッコいいけどね、おれもなかなかイケてない? 第二候補に、どう?」
「にゅあっ?」
 さよ子が変な声を上げたんで、おれは思わず噴き出した。
 おれは、さよ子の脇の下から腕を差し入れて、その軽い体を肩でかつぐようにして、ひょいと持ち上げて立たせた。体に触れたのは一瞬だ。さよ子の体は、うまいこと力が抜けた状態だったし、痛くもなかったはずで。
 介護のプロからコツを習った。抱えるほうと抱えられるほう、どっちにも負担の少ない体の使い方は、覚えておいて損がない。使える場面は意外とあるんだ。今みたいな遊びだけじゃなくて、本命って呼べる場面が。
「コケないように気を付けなよ~?」
「ははははいっ!」
 さよ子は真っ赤になって、ペコペコしながらおれに礼を言って、逃げるように廊下を去っていった。鈴蘭もさよ子を追い掛けて、行ってしまった。
 連絡先は、お互いに訊かなかった。だって、近いうちにまた必ず四獣珠が引き合うはずだって、確信があるから。
 あ、でも、あの子ら、煥の出待ちするつもりだったんじゃねーの? おれが追い返しちゃったよ。
 やれやれって気分で、息をついて。
 ポケットでスマホが唸った。姉貴からの電話だ。おれは通話アイコンをタップした。画面に姉貴が映る。
〈もしもし、今は電話して大丈夫?〉
「大丈夫だよ。部屋探し、ごくろーさん。いい物件、あった?」
〈もう決めてきたわ。即入居可能の部屋だから、できるだけ早いうちに家具でも何でもそろえて、引っ越しちゃいましょ〉
「早っ! さすがすぎますゎ、おねーさま」
〈今週末は家具と家電の買い物ね〉
「了解。で、今日はこれからホテルに戻ればいい?」
 一拍、間があった。
 姉貴は画面越しにおれを見つめた。
〈病院に連絡してみたの。面会、午後七時まで許可できるって言ってもらった。行くでしょ?〉
 一拍、おれも答えそびれた。
 それから、無理やり笑って答えた。
「行く」
 一年間、目を背け続けてきたから。
 そろそろちゃんと会いに行かなきゃ。