【教えろよ】
直撃する雷鳴のように地響きを伴って、おれの声が思念の大轟音となる。
【何でこんなことになってんだよ? この世界、どうなってんだよ? おれはどうすりゃいいんだよ?】
チカラが暴走する。号令《コマンド》ではない。おれの声を聞いたら、誰もが平伏すだろう。
【なあ、教えろよ! おれはどうすりゃいいんだよッ!】
絶対王者の怒号だ。
煥も海牙も動きを止めた。
思念の共鳴が引き起こす痛みで、胞珠の中に火花が飛び散ってる。痛くて視界がチカチカする。
でも、黙ってやるもんかよ。おれにはあんたらみたいな、何が好きとか何がほしいとかっていう目的はない。
空っぽなんだよ。なのに、ここに立たされてんだよ。振り回されてばっかだったんだよ。ムカつくんだよ。意味わかんねーんだよ。
ぶっ壊したくなるんだよ。
【何もかも全部! 全部おれの望むままになればいいのにッ!】
叫んだ。全身全霊を込めて叫んだ。
おれのチカラは言葉で、他人を従わせる号令《コマンド》を発動できて、やりたい放題にできそうなもんなのに、無力な思いばっか味わってきた。
暴れてやりてーんだよ。もっともっと。
【意味ねーだろ! こんな世界ッ!】
自分の言葉に鼓舞されて、衝動が湧き起こった。破壊衝動。中途半端にダラダラ続いてく世界なら、もういっそのことド派手にぶっ壊れりゃいい。
額の胞珠が痛い、痛い、痛い。ぶち込んだ思念が強すぎて、その増幅ペースも速すぎて、処理が追い付かなくて痛い。頭が締め上げられるように痛い。
でも、痛いのが気持ちいい。
【ぶっ壊れちまえッ! 全部、全部ッ!】
おれが発信源の思念が、言葉が、チカラが、誰も立っていられないくらいの勢いで噴き出している。
ちょっと離れた建物の窓から、痛みに耐えかねた絶叫が聞こえた。それから、ポンッと音がして、誰かの胞珠が破砕したのがわかった。そんなのがいくつか続いた。
すげー。
おれって、こういうことできんだ。
叫んだだけで、人、殺しちゃったよ。
【ははは、あはははは、ははははははははっ!】
おれが笑うだけで、煥も海牙も鈴蘭も立ち上がることができない。
痛い痛い痛い。額が裂けて中身が飛び出しそうに痛い。痛すぎて笑えるくらい痛い。
その瞬間、悪寒がした。
とんでもないモノと共鳴したのを感じた。呑み込まれるんじゃないかって恐怖が、おれの喉をつかんで押さえた。声が出なくなった。
黒塗りの上等なワゴン車が内側から弾け飛んだ。
鉄片とか油とか機械のかけらとか、中に乗ってた誰かのバラバラ死体とか、いろんなものがまき散らされた。小さな爆発が起こった。絶望的な思念の絶叫が聞こえたから、たぶん胞珠の破砕だった。
車ごと数人を吹っ飛ばした衝撃波のど真ん中に、人の形をしたモノが存在していた。
ほとんど全身が輝いている。服を着ていても、それが意味をなさないくらいにまばゆい。
いや、太陽みたいなまぶしさってわけじゃなくて、そう感じられるだけ。チカラの圧が強すぎて、まぶしい光や猛烈な風に似たものを感じてしまう。
体じゅうが胞珠だ。
「化け物」
思わず、おれはつぶやいた。
そいつがこっちを向いた。両眼も漏れなく胞珠で、ダイヤモンドみたいな色だ。右腕がない。
【壊していいのかい?】
ひどく無邪気に、そいつはおれに訊いた。
その声は、おれが使う思念の声によく似ていた。でも、圧倒的な大声だった。ぶん殴られた脳ミソがぺしゃんこになったみたいで、おれは気持ち悪くて吐いた。胃液が喉を焼いた。
海牙が三日月刀を支えにして立った。
「総統、待って……落ち着いてください! 気を確かに持ってください!」
そいつは海牙を見て、首をかしげて、一本きりの腕を伸ばして、三日月刀を指差した。
【それは、斬るためのものだ。こんなふうに】
三日月刀が浮き上がって、ひるがえった。旋回する。
煥の首が、冗談みたいにポーンと高く飛んだ。噴水みたいな鮮血。体が崩れ落ちるのと、首が転がるのと、ほぼ同時。
海牙が口を押さえてよろめいた。鈴蘭が悲鳴を上げて煥の首に駆け寄った。
総統、と海牙に呼ばれた男は、自分の手のひらを見た。両方を見たかったんだろうけど、あいにく右腕がない。左手を見て、右の空虚を見て、首をかしげて、凄まじい圧力の思念の声でつぶやく。
【足りない。取り戻さなければ。因果の天秤に、均衡を】
たぶんそう言った。最後までハッキリとは聞き取れなかった。
ぐずぐずと壊れ始めた。総統の足下の地面が、ずぶずぶと沈下していく。総統の全身の胞珠がくすみ出して、砂のようなざらざらが混じる。
海牙が切羽詰まった表情で叫んだ。
「ここから離れてください! もうダメだ。巻き込まれる前に早く!」
煥の首を抱いた鈴蘭が顔を上げた。
「何が起こるの?」
「俗に言うダンジョンですよ。呑まれたくなかったら、逃げ……」
警告は遅すぎた。
アスファルトが波打ってひび割れたと思うと、おれたちは、空洞になった地底に引き込まれる。荒れ狂うチカラの暴風に揉みくちゃにされて、意識が飛んだ。
直撃する雷鳴のように地響きを伴って、おれの声が思念の大轟音となる。
【何でこんなことになってんだよ? この世界、どうなってんだよ? おれはどうすりゃいいんだよ?】
チカラが暴走する。号令《コマンド》ではない。おれの声を聞いたら、誰もが平伏すだろう。
【なあ、教えろよ! おれはどうすりゃいいんだよッ!】
絶対王者の怒号だ。
煥も海牙も動きを止めた。
思念の共鳴が引き起こす痛みで、胞珠の中に火花が飛び散ってる。痛くて視界がチカチカする。
でも、黙ってやるもんかよ。おれにはあんたらみたいな、何が好きとか何がほしいとかっていう目的はない。
空っぽなんだよ。なのに、ここに立たされてんだよ。振り回されてばっかだったんだよ。ムカつくんだよ。意味わかんねーんだよ。
ぶっ壊したくなるんだよ。
【何もかも全部! 全部おれの望むままになればいいのにッ!】
叫んだ。全身全霊を込めて叫んだ。
おれのチカラは言葉で、他人を従わせる号令《コマンド》を発動できて、やりたい放題にできそうなもんなのに、無力な思いばっか味わってきた。
暴れてやりてーんだよ。もっともっと。
【意味ねーだろ! こんな世界ッ!】
自分の言葉に鼓舞されて、衝動が湧き起こった。破壊衝動。中途半端にダラダラ続いてく世界なら、もういっそのことド派手にぶっ壊れりゃいい。
額の胞珠が痛い、痛い、痛い。ぶち込んだ思念が強すぎて、その増幅ペースも速すぎて、処理が追い付かなくて痛い。頭が締め上げられるように痛い。
でも、痛いのが気持ちいい。
【ぶっ壊れちまえッ! 全部、全部ッ!】
おれが発信源の思念が、言葉が、チカラが、誰も立っていられないくらいの勢いで噴き出している。
ちょっと離れた建物の窓から、痛みに耐えかねた絶叫が聞こえた。それから、ポンッと音がして、誰かの胞珠が破砕したのがわかった。そんなのがいくつか続いた。
すげー。
おれって、こういうことできんだ。
叫んだだけで、人、殺しちゃったよ。
【ははは、あはははは、ははははははははっ!】
おれが笑うだけで、煥も海牙も鈴蘭も立ち上がることができない。
痛い痛い痛い。額が裂けて中身が飛び出しそうに痛い。痛すぎて笑えるくらい痛い。
その瞬間、悪寒がした。
とんでもないモノと共鳴したのを感じた。呑み込まれるんじゃないかって恐怖が、おれの喉をつかんで押さえた。声が出なくなった。
黒塗りの上等なワゴン車が内側から弾け飛んだ。
鉄片とか油とか機械のかけらとか、中に乗ってた誰かのバラバラ死体とか、いろんなものがまき散らされた。小さな爆発が起こった。絶望的な思念の絶叫が聞こえたから、たぶん胞珠の破砕だった。
車ごと数人を吹っ飛ばした衝撃波のど真ん中に、人の形をしたモノが存在していた。
ほとんど全身が輝いている。服を着ていても、それが意味をなさないくらいにまばゆい。
いや、太陽みたいなまぶしさってわけじゃなくて、そう感じられるだけ。チカラの圧が強すぎて、まぶしい光や猛烈な風に似たものを感じてしまう。
体じゅうが胞珠だ。
「化け物」
思わず、おれはつぶやいた。
そいつがこっちを向いた。両眼も漏れなく胞珠で、ダイヤモンドみたいな色だ。右腕がない。
【壊していいのかい?】
ひどく無邪気に、そいつはおれに訊いた。
その声は、おれが使う思念の声によく似ていた。でも、圧倒的な大声だった。ぶん殴られた脳ミソがぺしゃんこになったみたいで、おれは気持ち悪くて吐いた。胃液が喉を焼いた。
海牙が三日月刀を支えにして立った。
「総統、待って……落ち着いてください! 気を確かに持ってください!」
そいつは海牙を見て、首をかしげて、一本きりの腕を伸ばして、三日月刀を指差した。
【それは、斬るためのものだ。こんなふうに】
三日月刀が浮き上がって、ひるがえった。旋回する。
煥の首が、冗談みたいにポーンと高く飛んだ。噴水みたいな鮮血。体が崩れ落ちるのと、首が転がるのと、ほぼ同時。
海牙が口を押さえてよろめいた。鈴蘭が悲鳴を上げて煥の首に駆け寄った。
総統、と海牙に呼ばれた男は、自分の手のひらを見た。両方を見たかったんだろうけど、あいにく右腕がない。左手を見て、右の空虚を見て、首をかしげて、凄まじい圧力の思念の声でつぶやく。
【足りない。取り戻さなければ。因果の天秤に、均衡を】
たぶんそう言った。最後までハッキリとは聞き取れなかった。
ぐずぐずと壊れ始めた。総統の足下の地面が、ずぶずぶと沈下していく。総統の全身の胞珠がくすみ出して、砂のようなざらざらが混じる。
海牙が切羽詰まった表情で叫んだ。
「ここから離れてください! もうダメだ。巻き込まれる前に早く!」
煥の首を抱いた鈴蘭が顔を上げた。
「何が起こるの?」
「俗に言うダンジョンですよ。呑まれたくなかったら、逃げ……」
警告は遅すぎた。
アスファルトが波打ってひび割れたと思うと、おれたちは、空洞になった地底に引き込まれる。荒れ狂うチカラの暴風に揉みくちゃにされて、意識が飛んだ。