リビングに硝煙の匂いが立ち込めていた。汚れた絨毯に身を伏せた少年は察していた。日常はもう戻ってこない、と。
「だから、行け。行って、戦え」
 伯父は少年に告げた。その目からは、急速に命の灯が消えつつある。
「でも、このままじゃ……」
「このままじゃ共倒れだ。私のことはいい。行け、師央《しおう》」
 伯父は大きな手のひらで少年の頬を包んだ。少年は、泣いてはいなかった。泣きたいと思った。
 純白の宝珠が少年の手の中でまたたいた。急かすかのように、チカチカと、せわしないリズムだ。
 伯父の手のひらが宝珠に触れた。彼はささやいた。
「白獣珠《はくじゅうしゅ》よ、応えよ。この者、師央を過去へ連れてゆけ。代償は、ここにある」
 伯父は自らの胸を指し示した。まだ動く心臓を収めた、左の胸を。
 白獣珠が、猛虎が牙を剥くようにギラリと輝いた。一条の白い光が伯父に突き刺さる。少年が目を見張った。
「伯父さ……」
 少年の姿が掻き消えた。白獣珠もまた、少年の手にいだかれて去った。
 ひとり残された伯父は、すでに息絶えている――。