「ですよね。しかも彼が言うには、めちゃくちゃ内々にお願いしたいんだそうです。雑誌やWEBで、毎月懸賞やってるじゃないですか。そういうところの賞品に使ってもらうことはできるので、それでいいならって先輩たちは受けたんです。百枚ほど」
「百枚!」
「ミュージシャンって、だれ?」
「それがですね」
私は阿形さんの質問に、待ってましたとばかりに答えた。
「ストリートミュージシャンなんです。meecoさんという若い女性で、あいにく宣伝課ではだれも聞いたことがないんですが」
「ミーコ?」
「そうです。駅前で歌って、手作りCDを売ってるような」
「宣伝課まで使って、そんなCDを配らなきゃならないって、どういう事態?」
いつの間にか阿形さんはカップをペンに持ち替え、メモを取りながら聞いている。
「先輩たちも、あまりにおかしいと感じて種原さんの口を割らせたんです。そうしたらなんと、CDをばらまけと命令を出していたのが国内営業の副本部長らしく」
「仲鉢副本部長だな?」
それまでだまって聞いていた柊木さんが口を開いた。
「そうです」
「仲鉢副本部長とそのミュージシャンの関係は?」
「それがもう、あり得ないでしょって話なんですけど、なんでも家族でよく行くショッピングセンターで、そのミーコさんが歌ってたそうなんですね。そうしたら奥さんと娘さんが、すっかり彼女の歌を気に入り」
「めちゃくちゃ私情だねー」
佐行さんがあきれ声を出す。
わかる。私たちも定例会で話を聞いたときは、開いた口がふさがらなかった。
「ですよね。今では家に招いてごはんを食べさせたりして、家族ぐるみで推してるそうです。新作のCDも大量に買ってあげて……」
「自分の会社を使って配ってるわけ?」
です、と阿形さんにうなずいた。
PCをいじっていた佐行さんが、「ああ、この子か」と声をあげる。
「個人サイトがあった。たしかに毎週、板橋のショッピングセンターでライブしてるって書いてあります。仲鉢副本部長の住まいもそのへんでしたよね」
くるっとこちらに向けた画面には、見覚えのあるCDのジャケットが表示されていた。空を背景に、光でほとんど真っ白に飛んだ女性の横顔が写っている。
「楽曲のサンプルもある。流します?」
「ジャケットでだいたい想像つくから、いいよ」
「百枚!」
「ミュージシャンって、だれ?」
「それがですね」
私は阿形さんの質問に、待ってましたとばかりに答えた。
「ストリートミュージシャンなんです。meecoさんという若い女性で、あいにく宣伝課ではだれも聞いたことがないんですが」
「ミーコ?」
「そうです。駅前で歌って、手作りCDを売ってるような」
「宣伝課まで使って、そんなCDを配らなきゃならないって、どういう事態?」
いつの間にか阿形さんはカップをペンに持ち替え、メモを取りながら聞いている。
「先輩たちも、あまりにおかしいと感じて種原さんの口を割らせたんです。そうしたらなんと、CDをばらまけと命令を出していたのが国内営業の副本部長らしく」
「仲鉢副本部長だな?」
それまでだまって聞いていた柊木さんが口を開いた。
「そうです」
「仲鉢副本部長とそのミュージシャンの関係は?」
「それがもう、あり得ないでしょって話なんですけど、なんでも家族でよく行くショッピングセンターで、そのミーコさんが歌ってたそうなんですね。そうしたら奥さんと娘さんが、すっかり彼女の歌を気に入り」
「めちゃくちゃ私情だねー」
佐行さんがあきれ声を出す。
わかる。私たちも定例会で話を聞いたときは、開いた口がふさがらなかった。
「ですよね。今では家に招いてごはんを食べさせたりして、家族ぐるみで推してるそうです。新作のCDも大量に買ってあげて……」
「自分の会社を使って配ってるわけ?」
です、と阿形さんにうなずいた。
PCをいじっていた佐行さんが、「ああ、この子か」と声をあげる。
「個人サイトがあった。たしかに毎週、板橋のショッピングセンターでライブしてるって書いてあります。仲鉢副本部長の住まいもそのへんでしたよね」
くるっとこちらに向けた画面には、見覚えのあるCDのジャケットが表示されていた。空を背景に、光でほとんど真っ白に飛んだ女性の横顔が写っている。
「楽曲のサンプルもある。流します?」
「ジャケットでだいたい想像つくから、いいよ」