〝天〟でもなければ〝A〟でもない、まさかのカタカナの〝ア〟の字をかたどったシンボルマークは〝マルアマーク〟と呼ばれ、『建設業の屋号みたい』『一周回っておしゃれ』等々言われながらも創業時からほとんどデザインを変えず、日本の道路を走っている車の五%くらいの鼻先にくっついている。
いくつかある人気車種のうち、夏にフルモデルチェンジを控えているのが、ハイペリオンというSUVだ。
この新型ハイペリオンの導入が、目下の一大事業である。私にとっては入社してはじめて迎えるフルモデルチェンジだ。
「生駒さん、来週の部長会に出てみない?」
ある日、ハイペリオンの車種担当である浅田さんが声をかけてきた。
「ぶっ、部長会!」
「新型の導入ツールの説明に五分もらったんだ。もちろん俺も同席するけど。生駒さんも二年目でしょ? どんどん社内に顔売ってこうよ!」
爽やかなお兄さんといった感じの浅田さんが、パーンと私の背中を叩く。
ひええ、責任重大だ。もう緊張してきた。
五月も後半にさしかかり、連休でとぼけてしまった生活リズムも戻った。
柊木さんたちと食堂で会い、地下三階の謎の会議室で話したのも、もう一週間以上前だ。あれから彼らの気配すら感じる機会がない。まるで夢の中の出来事だったような気がしてくる。
たしかに一緒に慌ただしい食事をして、柊木さんが左手でとんかつを食べるのを見て、佐行さんと阿形さんの親しげな会話を聞いたはずなのに。
そのとき、私のPCの画面にメールの受信を知らせるポップアップが表示された。課長からの転送だ。
タイトルは『会計システム活用講座開催のお知らせ』とあり、宛先は課内全員。本文に『生駒さん、参加の取りまとめよろしく』と書いてあった。
私は『承知しました』と返信し、添付されていた開催概要を開いた。システム入力のミスや費目の間違いが多いため、よくある間違いを事例として、簡単な講座を開きます、という財務管理部からの通達だった。
間違いのサンプルとして、イベントなどでスタッフやお客さまに提供した食事を、どう費目を分けて計上するか、という例が挙げられている。
ぴんときた。
これは、第二総務部から人事部長への牽制だ。
通達に記載してある〝展開先〟を確認する。本社のあらゆる部門が宛先となっており、その中にはもちろん、人事部もあった。
いくつかある人気車種のうち、夏にフルモデルチェンジを控えているのが、ハイペリオンというSUVだ。
この新型ハイペリオンの導入が、目下の一大事業である。私にとっては入社してはじめて迎えるフルモデルチェンジだ。
「生駒さん、来週の部長会に出てみない?」
ある日、ハイペリオンの車種担当である浅田さんが声をかけてきた。
「ぶっ、部長会!」
「新型の導入ツールの説明に五分もらったんだ。もちろん俺も同席するけど。生駒さんも二年目でしょ? どんどん社内に顔売ってこうよ!」
爽やかなお兄さんといった感じの浅田さんが、パーンと私の背中を叩く。
ひええ、責任重大だ。もう緊張してきた。
五月も後半にさしかかり、連休でとぼけてしまった生活リズムも戻った。
柊木さんたちと食堂で会い、地下三階の謎の会議室で話したのも、もう一週間以上前だ。あれから彼らの気配すら感じる機会がない。まるで夢の中の出来事だったような気がしてくる。
たしかに一緒に慌ただしい食事をして、柊木さんが左手でとんかつを食べるのを見て、佐行さんと阿形さんの親しげな会話を聞いたはずなのに。
そのとき、私のPCの画面にメールの受信を知らせるポップアップが表示された。課長からの転送だ。
タイトルは『会計システム活用講座開催のお知らせ』とあり、宛先は課内全員。本文に『生駒さん、参加の取りまとめよろしく』と書いてあった。
私は『承知しました』と返信し、添付されていた開催概要を開いた。システム入力のミスや費目の間違いが多いため、よくある間違いを事例として、簡単な講座を開きます、という財務管理部からの通達だった。
間違いのサンプルとして、イベントなどでスタッフやお客さまに提供した食事を、どう費目を分けて計上するか、という例が挙げられている。
ぴんときた。
これは、第二総務部から人事部長への牽制だ。
通達に記載してある〝展開先〟を確認する。本社のあらゆる部門が宛先となっており、その中にはもちろん、人事部もあった。