屯所の外に出たら、子どもが歌う声が聞こえてきた。
「まるたけえびすに
 おしおいけ
 あねさんろっかく
 たこにしき
 しあやぶったか
 まつまんごじょう」
 古い和風の音階を使った、シンプルな童謡だった。童謡が聞こえてくるほうへ、アタシとラフ先生は行ってみた。
 子どもたちが笑いながら歌っている。下は四歳くらいから、いちばん大きくても八歳くらいまで。輪になった子どもたちの真ん中に、スラリとした青年がいる。
「沖田さん、いましたね」
「そういえば、そうだったな。沖田はよくサボって近所の子どもらと遊んでたって」
「史実なんですか?」
 おませな感じの女の子が、沖田さんを見上げた。
「沖田センセ、覚えはった? 京の通りの名前の唄やねんで。早よ覚えんと、迷わはるえ」
「覚えたよ。一緒に歌おうか」
 高い子どもたちの声に、沖田さんの柔らかく低い声が交じる。
 元気な男の子が、沖田さんの腰に飛び付いた。沖田さんが腰をかがめると、男の子は沖田さんの背中によじ登る。背中の上で、男の子が言った。
「なぁ、沖田センセ、今日は山南《さんなん》センセ、いはらへんの?」
「山南さん? ボクは見かけてないけど」
「このごろ、山南センセ、遊んでくれはらへんねん。どないしてはるん?」
「んー、ボクも山南さんとは最近、行き違いなんだよ」
 沖田さんがアタシたちに気付いた。屈託のない笑顔で手を振ってくる。
 アタシとラフ先生は子どもたちの輪に近付いた。子どもたちは興味津々で、口々にしゃべりかけてきた。
「二人とも新撰組なん?」
「女の人でも新撰組になれるん?」
「あんな、新撰組って怖いねんで」
「でも、沖田センセと山南センセは違うねん」
「ウチらと遊んでくれはるんえ」
 沖田さんは両腕に子どもをぶら下げて、背中にも子どもをくっつけている。
「ボクに何か用事? 斎藤さんと一緒にいたんじゃないの?」
「斎藤は、土方に用事を言い付けられてたよ。裏で何か探ってくる用事らしい」
「へぇ、そうか。斎藤さんが動いたってことは、厄介ごとかな? 何にしても……」
 沖田さんの言葉の途中で、子どもたちが「あっ!」と声をあげた。沖田さんの両腕と背中から、子どもたちが離れる。