斎藤さんのAIがアタシの視線を感知したらしい。斎藤さんは小首をかしげて口を開いた。
「何か問いたいことでも?」
「えっと、会津のお殿さまって、どんなかたなんですか?」
「病弱だが、気骨のある殿さまだ。京の治安維持の仕事を将軍に任じられている。オレたち新撰組はもともと、野良犬の集団のように、京の町の厄介者扱いされていた。そんな集団の飼い主なんて、普通は引き受けたくもないだろうが」
「でも、会津のお殿さまは、新撰組を大事にしてくださるんですね?」
 小さく微笑んで、斎藤さんはうなずいた。
「オレは、あの人のことは嫌いじゃない」
 不意に外が騒がしくなった。木刀を振るう掛け声が止まって、わらわらと、ばらけた歓声があがる。
「近藤さんだ!」
「局長、御所へ行かれるんですか?」
「すごい、カッコいいっす!」
 アタシはふすまを開けた。庭の一角に、近藤さんが姿を現したところだ。みごとな甲冑姿。髪もピシッと結ってあって、背も高いから堂々としている。隊士たちは汚れるのもかまわず、ひざまずいて近藤さんを見上げている。
「見違えますね!」
 アタシは手を叩いた。
 近藤さんはアタシを目に留めたけど、一瞬チラッと笑っただけだった。池田屋のときは頭をポンポンしてくれたのにな。ちょっと遠い人になってしまった感じ。仕方ないか。新撰組は立派になって、そのリーダーである近藤さんも大出世したのだから。
 シャリンさんは腕組みをほどかず、鼻を鳴らした。
「イヤな感じね。調子に乗ってて」
「え? 近藤さんのことですか?」
「さっき、永倉新八っていう、昔からのメンバーもぼやいてた。一連の手柄があって昇進してから、近藤はチャラチャラしてるって。腰ぎんちゃくを連れて威勢がいい割に、人と語り合うことをしなくなった。人の批判を受け入れなくなってしまったって」
 斎藤さんが苦い顔をした。
「オレもシャリンに同意する。近藤さんは勘違いしている。オレたちは、子分じゃない。同志なんだ」
 斎藤さんは、この話はおしまい、と言うように刀の手入れを終えた。スッと鋭い音をたてて刀を鞘にしまう。