バトルが始まった瞬間。
ブヮヮン、と音がしてCGが歪んだ。古い和風の街並みが、べしゃりとつぶれる。三Dだった風景から立体感が消えて、平面になった。リアルな色彩も、べたっとした単色に塗り込められる。
「亜空間に入ったんですか?」
誰にともなく尋ねた。斎藤さんが舌打ちした。
「ヤツら、やっぱり『力場』持ちだったな」
「力場、というのは?」
「人外のチカラだ。魂を売り飛ばして、妖《あやかし》の一種に成り下がっているわけだ。しかし、アンタら、力場にいて平気なのか?」
「平気みたいです。斎藤さんと沖田さんこそ」
斎藤さんはアタシの言葉に反応しなかった。今はそれどころじゃないっていうことかな。
敵対する十人の姿が変化する。体が膨れ上がって、ケモノ化して、着物が破れて弾けた。目がらんらんと光っている。とりわけ異様なのは、胸にある赤黒い紋様だ。複雑に描き込まれた円形の紋様。
沖田さんが無邪気そうに笑った。
「あーぁ、カッコ悪いな。誇り高き志士サマとやらが。あんな毛むくじゃらのケダモノになっちゃって。アイツら、もう理性も呑まれちゃってるよ。チカラを得たいっていう、妖の心にね。ほっとくのもかわいそうだし、さっさと斬ってあげよう」
ニコルさんの杖の先の珠が緑色に光った。魔法が発動する。
“賢者索敵―ケンジャサクテキ―”
「妖志士《ようしし》か。一体一体はたいして強くない。数が多いのが少し面倒だね」
シャリンさんがアタシを呼んだ。
「ミユメ、援護して。まずは唄を出して。あと、アイツらがバラけないように囲い込んで」
「わかりました! BPMはいくつにしますか?」
「300」
「了解です!」
ピアズのバトルシステムは独特だ。音楽系ゲームと同じスタイルになっている。
画面手前に開かれた小ウィンドウに、八種類の矢印が降ってくる。上・下・左・右の四方向と、それを四十五度回転させた、斜め四方向。
「戦唄―バトルソング―!」
BPM300の超アップテンポに、ロックテイストの明るい曲調。ディスプレイの中でアタシは歌い出す。
『失恋ロジカル』をBGMに、リズムとフレーズに合わせて、小ウィンドウに矢印が降ってくる。矢印が小ウィンドウの下端にあるヒットラインに達する、その瞬間を狙って、完璧なタイミングで方向キーのコマンド入力。
ピア全員で同じ唄を共有すれば、スキルが強固に連携できる。コンボボーナスが指数関数的に跳ね上がるんだ。
「行くわよ!」
シャリンさんが真っ先に飛び出した。その背中をニコルさんの魔法がドンと押す。
“闘士強壮―トウシキョウソウ―”
攻撃力アップの補助魔法だ。緑色の輝きをまとうシャリンさんが、跳ぶ。
“Wild Iris”
虹色の光が刺突の軌跡を描く。攻撃を食らった一体は、青い光になって消滅する。
ラフ先生がシャリンさんに続く。妖志士が吠える。アタシは、完成した魔法を地面に叩き付けた。
「水檻―アクアケージ―!」
九本の太い水柱が噴き上がる。水柱は水の檻《おり》、呪縛の水槽だ。足元から生えたケージを避けきれず、妖志士のうちの七体が動きを奪われる。
ラフ先生が双剣をかついで跳躍する。
“stunna”
横ざまに旋回する勢いを双剣に乗せて、水檻ごと敵をまっぷたつにした。青い光になって、妖志士が消える。
斎藤さんが無言で突っ込んでいく。
“剋爪―コクソウ―”
駆け抜けながら、水檻もろとも妖志士を叩き斬る。
技を放った斎藤さんの背中が、一瞬、がら空きになる。そこを狙う牙。水檻につかまえきれなかった妖志士が回り込んでいる。
沖田さんが笑った。
「それで不意打ちのつもり?」
斎藤さんを狙う妖志士の巨体へと、沖田さんは全身で飛び込んだ。
“三煖華―サンダンカ―”
三連の突きが妖志士の体に風穴を空けた。斎藤さんが沖田さんを振り返る。唇の端が、小さく持ち上がる。沖田さんが、ふふっ、と小さな声を立てる。
今のコンビネーション、カッコいい! アタシも負けていられない。得意の水氷魔法を、妖志士に叩き付ける――。
ブヮヮン、と音がしてCGが歪んだ。古い和風の街並みが、べしゃりとつぶれる。三Dだった風景から立体感が消えて、平面になった。リアルな色彩も、べたっとした単色に塗り込められる。
「亜空間に入ったんですか?」
誰にともなく尋ねた。斎藤さんが舌打ちした。
「ヤツら、やっぱり『力場』持ちだったな」
「力場、というのは?」
「人外のチカラだ。魂を売り飛ばして、妖《あやかし》の一種に成り下がっているわけだ。しかし、アンタら、力場にいて平気なのか?」
「平気みたいです。斎藤さんと沖田さんこそ」
斎藤さんはアタシの言葉に反応しなかった。今はそれどころじゃないっていうことかな。
敵対する十人の姿が変化する。体が膨れ上がって、ケモノ化して、着物が破れて弾けた。目がらんらんと光っている。とりわけ異様なのは、胸にある赤黒い紋様だ。複雑に描き込まれた円形の紋様。
沖田さんが無邪気そうに笑った。
「あーぁ、カッコ悪いな。誇り高き志士サマとやらが。あんな毛むくじゃらのケダモノになっちゃって。アイツら、もう理性も呑まれちゃってるよ。チカラを得たいっていう、妖の心にね。ほっとくのもかわいそうだし、さっさと斬ってあげよう」
ニコルさんの杖の先の珠が緑色に光った。魔法が発動する。
“賢者索敵―ケンジャサクテキ―”
「妖志士《ようしし》か。一体一体はたいして強くない。数が多いのが少し面倒だね」
シャリンさんがアタシを呼んだ。
「ミユメ、援護して。まずは唄を出して。あと、アイツらがバラけないように囲い込んで」
「わかりました! BPMはいくつにしますか?」
「300」
「了解です!」
ピアズのバトルシステムは独特だ。音楽系ゲームと同じスタイルになっている。
画面手前に開かれた小ウィンドウに、八種類の矢印が降ってくる。上・下・左・右の四方向と、それを四十五度回転させた、斜め四方向。
「戦唄―バトルソング―!」
BPM300の超アップテンポに、ロックテイストの明るい曲調。ディスプレイの中でアタシは歌い出す。
『失恋ロジカル』をBGMに、リズムとフレーズに合わせて、小ウィンドウに矢印が降ってくる。矢印が小ウィンドウの下端にあるヒットラインに達する、その瞬間を狙って、完璧なタイミングで方向キーのコマンド入力。
ピア全員で同じ唄を共有すれば、スキルが強固に連携できる。コンボボーナスが指数関数的に跳ね上がるんだ。
「行くわよ!」
シャリンさんが真っ先に飛び出した。その背中をニコルさんの魔法がドンと押す。
“闘士強壮―トウシキョウソウ―”
攻撃力アップの補助魔法だ。緑色の輝きをまとうシャリンさんが、跳ぶ。
“Wild Iris”
虹色の光が刺突の軌跡を描く。攻撃を食らった一体は、青い光になって消滅する。
ラフ先生がシャリンさんに続く。妖志士が吠える。アタシは、完成した魔法を地面に叩き付けた。
「水檻―アクアケージ―!」
九本の太い水柱が噴き上がる。水柱は水の檻《おり》、呪縛の水槽だ。足元から生えたケージを避けきれず、妖志士のうちの七体が動きを奪われる。
ラフ先生が双剣をかついで跳躍する。
“stunna”
横ざまに旋回する勢いを双剣に乗せて、水檻ごと敵をまっぷたつにした。青い光になって、妖志士が消える。
斎藤さんが無言で突っ込んでいく。
“剋爪―コクソウ―”
駆け抜けながら、水檻もろとも妖志士を叩き斬る。
技を放った斎藤さんの背中が、一瞬、がら空きになる。そこを狙う牙。水檻につかまえきれなかった妖志士が回り込んでいる。
沖田さんが笑った。
「それで不意打ちのつもり?」
斎藤さんを狙う妖志士の巨体へと、沖田さんは全身で飛び込んだ。
“三煖華―サンダンカ―”
三連の突きが妖志士の体に風穴を空けた。斎藤さんが沖田さんを振り返る。唇の端が、小さく持ち上がる。沖田さんが、ふふっ、と小さな声を立てる。
今のコンビネーション、カッコいい! アタシも負けていられない。得意の水氷魔法を、妖志士に叩き付ける――。