なんていうことをしているうちに、ストーリーは進んでいる。
路地に足音が響いた。一人二人の足音ではない。
「東から来るわ」
シャリンさんが、サッと指差した。
路地が直行した辻がある。そこをパッと曲がって視界に飛び込んできた人影が二つ。
「えっ、嘘。まさか待ち伏せかい? キミたち、倒幕の連中の仲間?」
「不審なやつ。治安を乱すのが目的なら容赦はしない」
身構えた二人は、浅葱《あさぎ》色の羽織を着ている。刀に手を掛けた。一人が右利きで、もう一人は左利き。刀を抜いたときに背中合わせになれる立ち位置だ。
ニコルさんがクスッと笑った。
「新撰組だね。左利きのほうは、斎藤一《さいとう・はじめ》だ」
斎藤さんというらしい人が、目をすがめた。キリッとした顔立ちのイケメンさんだ。
「オレの名を知っているのか。なるほど。どうやら……」
斎藤さんは刀の柄から手を放した。右利きの剣士さんが、目をパチパチさせる。
「え、斎藤さん、やめちゃうの? コイツら斬らなくていいの?」
「ああ。少なくとも、倒幕派じゃなさそうだ」
ラフ先生が早口で説明を挟んだ。
「倒幕派ってのは、幕府を倒そうっていう派閥。新撰組にとっての敵だ。ミユメは新撰組のこと、詳しいか?」
「いえ、全然」
「じゃあ、かえって都合がいい。いろいろわかってたんじゃ、スリルが減るからな」
にゃあ、と声が聞こえた。目を凝らすと、右利きさんの足下だ。夜にまぎれる黒猫がいる。金色の目がピカッと光った。
頭上で鳥の羽ばたきが聞こえた。白いハトが斎藤さんの肩に降り立つ。斎藤さんは、ちょっとうっとうしそうに、ハトをポイと空中に放り投げた。
足音が迫ってくる。新撰組の二人が、走ってきた後ろを振り返った。
「あーぁ、面倒くさいな。早く近藤さんと合流したいのに」
右利きさんが口をとがらせた。何となく気楽そうな雰囲気なのは、刀を抜くような事態だというのに、ちょっと笑っているから。柔らかい顔立ちの人だ。
斎藤さんが、アタシたちに鋭い目を向けた。
「そこに突っ立っていられると、邪魔だ。選べ。死体になって場所を空けるか。それとも、オレたちの加勢をするか」
低くてよく通る声には、有無を言わせない強さがある。
「死体になるのは、困りますね」
アタシの言葉に、右利きさんがパッと笑った。
「よかった。面倒が一つ減った。じゃあ、手伝ってよ。でも、ケガしたり死んだりしないでね。ボクたちはいちいち責任取れないから」
笑顔で物騒なことを言って、右利きさんはコホッと咳をした。
ラフ先生がつぶやいた。
「咳、ね。なるほど。コイツ、沖田総司《おきた・そうじ》か」
沖田さんの名前は、アタシでも知っている。新撰組で一二を争うくらい有名じゃないかな。確か、肺の病気にかかっていた人だ。強いのに、病気のせいで十分に戦えない、悲運の天才剣士。
足音がどんどん迫ってくる。敵襲の警告。パラメータボックスに、数字が表示された。バトル開始までのカウントダウンだ。
路地に明かりが揺れた。わらわらと、辻に人影が現れる。手に手に提灯《ちょうちん》を持っている。
「いたぞ、新撰組だ!」
「味方と合流したか!」
「かまわん、道連れだ!」
敵の数は十人だ。
ラフ先生が双剣を抜いた。
「なぁんだ、この程度の人数か。サクッと片付けちまおうぜ」
シャリンさんも、もう剣を構えている。ニコルさんの手元に、ヒュンッと杖が現れる。沖田さんと斎藤さんが同時に抜刀した。
3・2・1・Fight!
路地に足音が響いた。一人二人の足音ではない。
「東から来るわ」
シャリンさんが、サッと指差した。
路地が直行した辻がある。そこをパッと曲がって視界に飛び込んできた人影が二つ。
「えっ、嘘。まさか待ち伏せかい? キミたち、倒幕の連中の仲間?」
「不審なやつ。治安を乱すのが目的なら容赦はしない」
身構えた二人は、浅葱《あさぎ》色の羽織を着ている。刀に手を掛けた。一人が右利きで、もう一人は左利き。刀を抜いたときに背中合わせになれる立ち位置だ。
ニコルさんがクスッと笑った。
「新撰組だね。左利きのほうは、斎藤一《さいとう・はじめ》だ」
斎藤さんというらしい人が、目をすがめた。キリッとした顔立ちのイケメンさんだ。
「オレの名を知っているのか。なるほど。どうやら……」
斎藤さんは刀の柄から手を放した。右利きの剣士さんが、目をパチパチさせる。
「え、斎藤さん、やめちゃうの? コイツら斬らなくていいの?」
「ああ。少なくとも、倒幕派じゃなさそうだ」
ラフ先生が早口で説明を挟んだ。
「倒幕派ってのは、幕府を倒そうっていう派閥。新撰組にとっての敵だ。ミユメは新撰組のこと、詳しいか?」
「いえ、全然」
「じゃあ、かえって都合がいい。いろいろわかってたんじゃ、スリルが減るからな」
にゃあ、と声が聞こえた。目を凝らすと、右利きさんの足下だ。夜にまぎれる黒猫がいる。金色の目がピカッと光った。
頭上で鳥の羽ばたきが聞こえた。白いハトが斎藤さんの肩に降り立つ。斎藤さんは、ちょっとうっとうしそうに、ハトをポイと空中に放り投げた。
足音が迫ってくる。新撰組の二人が、走ってきた後ろを振り返った。
「あーぁ、面倒くさいな。早く近藤さんと合流したいのに」
右利きさんが口をとがらせた。何となく気楽そうな雰囲気なのは、刀を抜くような事態だというのに、ちょっと笑っているから。柔らかい顔立ちの人だ。
斎藤さんが、アタシたちに鋭い目を向けた。
「そこに突っ立っていられると、邪魔だ。選べ。死体になって場所を空けるか。それとも、オレたちの加勢をするか」
低くてよく通る声には、有無を言わせない強さがある。
「死体になるのは、困りますね」
アタシの言葉に、右利きさんがパッと笑った。
「よかった。面倒が一つ減った。じゃあ、手伝ってよ。でも、ケガしたり死んだりしないでね。ボクたちはいちいち責任取れないから」
笑顔で物騒なことを言って、右利きさんはコホッと咳をした。
ラフ先生がつぶやいた。
「咳、ね。なるほど。コイツ、沖田総司《おきた・そうじ》か」
沖田さんの名前は、アタシでも知っている。新撰組で一二を争うくらい有名じゃないかな。確か、肺の病気にかかっていた人だ。強いのに、病気のせいで十分に戦えない、悲運の天才剣士。
足音がどんどん迫ってくる。敵襲の警告。パラメータボックスに、数字が表示された。バトル開始までのカウントダウンだ。
路地に明かりが揺れた。わらわらと、辻に人影が現れる。手に手に提灯《ちょうちん》を持っている。
「いたぞ、新撰組だ!」
「味方と合流したか!」
「かまわん、道連れだ!」
敵の数は十人だ。
ラフ先生が双剣を抜いた。
「なぁんだ、この程度の人数か。サクッと片付けちまおうぜ」
シャリンさんも、もう剣を構えている。ニコルさんの手元に、ヒュンッと杖が現れる。沖田さんと斎藤さんが同時に抜刀した。
3・2・1・Fight!