来水高校前のバス停に最初に着いてたのは、瞬一だった。あたしと初生はほとんど同時に到着した。瞬一は目の下に隈ができてる。初生は目が真っ赤に腫れてる。あたしも2人と似たようなもんだと思う。
「ごめん!」
「ごめん!」
「ごめん!」
 開口一番、3人で見事に重なった。誰が誰に謝ってんだか、わけわかんない。
 何をどう言おうかって、朝の道を歩きながら考えてきたのに、いざとなったら、あたしの頭は働いてくれない。あたしはたぶん間抜け顔。初生は泣きそうな顔をした。怒った顔の瞬一が言った。
「何で笑音が謝るんだよ? おれが聞きたいのは、謝罪なんかじゃない」
 ちょっと長めの前髪からのぞくまじめな目は、男の顔をして怒鳴った瞬一じゃない。頑張りすぎる頑張り屋の、いつもの瞬一だ。おかげで、あたしは声が出る。
「瞬一が訊きたいことって? あたし、何言えばいいの?」
「昨日の晩、どこにいたんだよ? 通信、全部切ってただろ。夜になっても帰ってこなくて、おれ、不安で……」
 初生が、震える声を挟んだ。
「甲斐くんがわたしに電話してきたの。わたしのところにえみちゃんがいるんじゃないかって。そのとき初めて、えみちゃんが帰ってないって知った。心配したんだよ?」
 瞬一の怒った顔も、初生の泣きそうな顔も、あたしのことを心配してくれたから。
「黙っていなくなってて、ごめんね」
 全部を一気に説明するのは難しいかな。ピアズで経験した、途方もない冒険のこと。
 朝綺さんの魂をつかまえるためのオンラインの旅。リアルで積み上げられてきた麗さんの努力、風坂先生の切ない献身。今朝迎えたクライマックス、みんなで見た朝焼けがとても綺麗だったこと。
 瞬一と初生には余さず教えたいけど、今このまま全部しゃべったら、始業ベルには間に合わなくなっちゃう。
「響告大附属病院にいたんだ、あたし。パパのとこじゃなくて、風坂先生と、先生の妹さんと、妹さんの恋人と、一緒にいた。事情が複雑だから、改めてまた話すね。素晴らしい体験をさせてもらってきたんだ」
 初生が大きな目をぱちぱちさせた。
「えみちゃん、すごくスッキリした顔してる。どうしたの? 何があったの?」
「えへへ、まぁね。そう言う初生こそ、何か吹っ切れた感じがあるよ?」
 初生はうなずいて、微笑んだ。
「うん、吹っ切れたの。わたし、100か0かの二択だと思ってた。えみちゃんのことを100%の好きじゃなくなった瞬間、0%になったんだと思ってたの。でも、0%じゃなくていい? 3%の嫌いがあっても、残りの97%の好きで打ち消すから、許してくれる?」
「当たり前だよ! 許すも何もないってば。友達でいてよ、初生。悪いとこあったら教えてよ。あたし、直すから。優しくてまじめなのは初生のいいとこだけど、100%でいようなんて無茶なこと思わないでいいよ」
 実は似てるんだなー、って気付いた。初生って、瞬一と似てるよ。まじめなせいで不器用なところ、そっくり。
 初生が瞬一を見つめて言葉をつないだ。
「甲斐くんとも同じ話をしたの。100%じゃなくていいよねって。50%の友達同士になれないかなって」
 瞬一は初生の視線をまっすぐに受け止めた。口元に小さな微笑みがある。
「遠野さんとおれは、志望校も志望学部も一緒だ。遠野さんは看護学科で、おれは先端医療学科だけどな。受験教科はかぶってる。励まし合える友達になれたらいいかなって話したんだ」
「いいじゃん、それ。一緒に勉強しようよ」
「笑音もかよ? 笑音は勉強が頼りないからな、おれと遠野さんの足を引っ張るなよ?」
 からかう口調に、ハッとした。瞬一が冗談を言うなんて久しぶりだ。ひょっとして、始まってるんじゃないかな? 瞬一の新しい恋と、初生の生まれ変わった恋。
 うわー、気になる。だけど、学習したよ。今はまだ言っちゃダメなんだよね。あたしは見守るから。
「友達、だね?」