響告大学附属病院を出てすぐのところにある小さなカフェが、こんな早朝から営業していた。風坂先生がホットドッグの朝食セットをおごってくれた。
「ありがとうございます!」
 ケチャップの匂いが食欲をそそる。風坂先生だけじゃなく、あたしもおなか減ってた。背の高いカウンターテーブルに風坂先生と並んで座って、黙々と食べた。おいしすぎたんだもん。
 まあ、もちろん何かしゃべりたいよ。だけど、それはゆっくりできるときがいい。今はバタバタで、瞬一や初生との約束もあるし。
 あたし、ぜいたくになったかも。しょうがないよね。ピアズでの冒険があまりにも特別だったから。風坂先生もあたしのこと、ただの教え子じゃなくて、ちょっと特別な仲間《ピア》だと思ってくれてるよね?
「あの、風坂先生、また朝綺さんのお見舞いに行ってもいいですか?」
 風坂先生はにっこりした。唇の端っこにケチャップが付いてる。無防備さがヤバいっす。萌える。
「ぜひ来てやってよ。あいつ、よくしゃべるから、発声が回復するのは早いと思う。話をしに来てほしいな。ああ、そうだ。ぼくと麗の連絡先を教えておくね」
「まままマジで教えてもらっていいんですか!?」
 噛むな、あたし。
「こちらこそ笑音さんの連絡先を教えてもらいたいわけだけど、大丈夫かな?」
「ぜぜぜ全然ほんとに大丈夫ですっ」
 だから噛むなってば、もうーっ。
 学校では内緒だよと言いながら、風坂先生は連絡先を教えてくれた。あたしも自分の連絡先を送信する。端末を操作する間、幸せすぎてふわふわした。
「それとね、お見舞いに来るときは『風坂先生』はやめてもらっていい?」
「はい?」
「麗も准教授だから『風坂先生』なんだよ。まぎらわしいから、お見舞いのときだけは、ぼくのことは下の名前で呼んでもらえるかな?」
「でででではっ、界人先生とお呼びしますっ!」
 ますます幸せすぎて頭が沸騰して爆発した。昇天する。