あたしは1人、朝綺さんの病室を出て仮眠室に戻った。ログインしっぱなしだったピアズは、4時間を超えたから、強制的にスタート画面に戻ってた。あたしはピアズを閉じて、端末のメッセージ機能を起動した。
「あれ? 新着がいっぱいある」
 そういえば、昨日は全部の通知をオフにしてたんだよね。メッセージも通話も全部。誰にも話し掛けられたくない気分で。
 メッセージの送り主を見て、息を呑んだ。甲斐瞬一と遠野初生。2人の名前が、ずらっと。
「寝てないんじゃないの、2人とも?」
 それぞれが1時間おきくらいに、メッセ送ったり電話かけたりしてくれてる。2人からのメッセージはシンプルだった。ほとんどすべてが同じ内容の短文で。
〈笑音、ごめん、今どこにいるんだ?〉
〈えみちゃん、家に帰ってないの?〉
 メッセ全部に目を通して、留守電も聞いた。泣きそうになった。だって、瞬一も初生もあたしのこと心配してくれてる。あたし、嫌われてなかった。よかった。
 瞬一も初生も何度も謝ってる。涙ににじんだ声をしてる。ねえ、瞬一、初生。あたしにも謝らせてね。仲直りさせてもらえるかな?
 いても立ってもいられない気持ちになって、まだ早朝なのに、あたしは電話をかけた。まず瞬一に。それから初生に。
 会って話そうって、2人に約束した。来水高校前のバス停で、できるだけ早くそこで落ち合って、始業ギリギリまでちゃんと話をしようって。
 通話を終えて、あふれてしまった涙を拭った。顔を合わせるときは泣きたくないな。
「よっし、頑張ろ!」
 気合を入れて、こぶしを天井に突き上げる。くすりと、柔らかく笑う声がある。
「本当にいろいろありがとうね、笑音さん」
 じゅわっと胸に染みる優しい声だ。いつの間にか、風坂先生が仮眠室の入り口に立ってて、ほっぺたを掻きながら、メガネの奥の目を微笑ませた。
「いえいえいえ、あたしのほうこそ! ゆうべは行くあてがなかったとこを拾っていただいて、ほんとにありがとうございました!」
「あまり眠れてないだろ? 今日1日、学校でキツいと思うけど、頑張って」
「はい、もちろんです! これから出発します。瞬一や初生と待ち合わせしてるんで」
 あたしがカバンを手にしたときだった。ぐぅぅ~、きゅるる、という平和な音が聞こえてきた。あたし? じゃないんだよね、これが。
 風坂先生のほっぺたが、あっという間に赤くなった。かわいい……!
「あ、あはは、ごめん。安心したら、おなか減っちゃってさ。よかったら、一緒に何か食べない?」
 何だこの超役得展開!
「よよよ喜んでっ!」
 噛まないでよ、あたしーっ。がっついてるみたいじゃん。いやもうこの際だから、がっつきますけども。