午後の最初が風坂先生の授業だ。ナースⅢって科目。
 「nurse《ナース》」って英語、女性の看護師のイメージが強いけど、男性にも使います。っていうのを、ナース系の授業全部で最初に言われた。
 風坂先生の授業では実技も多い。患者さんの体を抱えたり支えたりする技術の実践。だから、授業は体操服に着替えて受ける。でも、うちの学校の体操服、色もデザインも微妙なんだよね。
「風坂先生の前で、小学生よりダサい体操服なんてイヤだー」
 あたしの愚痴に、初生は笑顔で付き合ってくれる。ぶかぶかの体操服に着られちゃってる初生だけど、かわいい子はどんな格好でも結局かわいい。反則。不公平。
 ざわざわしてた教室に風坂先生が入ってくると、おしゃべりがピタッと収まった。うちのクラスは気分屋だ。好きな先生の授業は、ほんとにまじめに聞く。嫌いな先生の授業は、しらーっとした空気になる。
 言うまでもなく、風坂先生は人気がある。女子からはもちろん、男子からも。
「こんにちはー。授業、始めまーす」
 しなやか柔らかボイスの、ちょっとのんびりな挨拶。若いんだよね、風坂先生の声。31歳にして、全然、声が枯れてない。声優さんだったら少年役で大ブレイクだよ、絶対。
 風坂先生は背が高い。190センチ近いと思う。癖っぽい髪はちょっと長め。顔立ちは派手じゃないけど、バランスがよくてカッコいい。
 黒縁のメガネが、目元をますます優しく見せる。目が奥のほうに引っ込んで見えちゃうくらいの度が強いメガネだ。外したら、どんな感じなんだろ?