「うしっ!」
あたしはコントローラを放り投げて、パシンと音を立てて両方のほっぺたを叩いた。くすっと喉を鳴らしたニコルさんが……違う、風坂先生が、あたしに笑顔を向けてくれた。
「今回がクライマックスだよ。よろしくね」
「はいっ!」
あたしと風坂先生は仮眠室にいる。あたしはベッドに腰掛けて、風坂先生はソファの上であぐらをかいて、それぞれのPCを広げてる。麗さんは、朝綺さんの病室。あたしたちは、ごく近い場所にいて、たった1つの願いのために戦っている。
ジャラールが、がくっと膝を突いた。肩で息をする。しんどそうですね。無理しなくてもいいのに、ジャラールはキッと顔を上げて、まっすぐにアタシたちを指差した。
「ゆけ、マーリド! ヤツらを蹴散らせ! 特にその灰色の犬コロだ。あの忌々しい犬コロは皆殺しにする。手始めに、そいつは必ず仕留めろ!」
オゴデイくんの前髪で隠れがちな青い目が、キラッと光った。
「オレへの侮辱は、甘んじて受けます。でも、蒼狼族の誇りをけがすヤツは許さない!」
オゴデイくんは喉をのけぞらせて、吠えた。おとなしいオゴデイくんが今、まっすぐな怒りに燃えている。
アォォォオオンッ!
ふぃん、とゲージが震える。レッドゾーンが近い。オゴデイくんが激しい動きを見せると、データが不安定になるみたい?
アタシの不安は的外れじゃなかったみたいで、シャリンさんが言った。
「ラフを戦闘から離脱させたわ。オゴデイと同時に動き回らせるのは不可能ね。コマンドに遅延が出るから、使い物にならない」
ってことは、このバトル、パワーヒッターがいなくなっちゃうわけだ。ラフさんの馬鹿力、頼りにしてるんだけどな。仕方ないか。
ジャラールが豪快に悪役笑いをした。
「ぐははははっ! オヌシら、ますます滅亡に近付いたようだな! 少ない手勢で、オレの魔術に太刀打ちできると思っているのか? 愚か者が! さあ、マーリドよ、連中を踏みつぶせ!」
言うだけ言って、ジャラールのホログラムが消える。
「セリフといい、笑い方といい、ほんっとに典型的な悪役キャラですよねー」
アタシは単純に呆れてただけ。ニコルさんは全然別のことを考えてた。
「サロール・タルのストーリー、まだ続くのか。確認してなかったけど、長編だったんだな。たぶん、ホラズム制覇の結末まで追うんだろう。とすると、次は首都サマルカンドを落とすだろ? ジャラールをインダス川まで追い詰めて、そこで……」
「おにいちゃんっ! マニアックな歴史ネタなんて、どーでもいいわよっ!」
シャリンさんじゃなく麗さんが、素のままで怒鳴った。アタシも、今は歴史の授業は聞かなくていいっす。
「ごめんごめん。わかってるよ。バトルに集中する」
ニコルさんはやんわり笑った。反省が感じられない。
ああもう、これだからマニアは。いや、物知りなのはニコルさんの胸キュンポイントではあるんだけどね、時と場所を選んでほしいんだよね。
パラメータボックスにカウントタウンが表示される。3・2・1、Fight!
あたしはコントローラを放り投げて、パシンと音を立てて両方のほっぺたを叩いた。くすっと喉を鳴らしたニコルさんが……違う、風坂先生が、あたしに笑顔を向けてくれた。
「今回がクライマックスだよ。よろしくね」
「はいっ!」
あたしと風坂先生は仮眠室にいる。あたしはベッドに腰掛けて、風坂先生はソファの上であぐらをかいて、それぞれのPCを広げてる。麗さんは、朝綺さんの病室。あたしたちは、ごく近い場所にいて、たった1つの願いのために戦っている。
ジャラールが、がくっと膝を突いた。肩で息をする。しんどそうですね。無理しなくてもいいのに、ジャラールはキッと顔を上げて、まっすぐにアタシたちを指差した。
「ゆけ、マーリド! ヤツらを蹴散らせ! 特にその灰色の犬コロだ。あの忌々しい犬コロは皆殺しにする。手始めに、そいつは必ず仕留めろ!」
オゴデイくんの前髪で隠れがちな青い目が、キラッと光った。
「オレへの侮辱は、甘んじて受けます。でも、蒼狼族の誇りをけがすヤツは許さない!」
オゴデイくんは喉をのけぞらせて、吠えた。おとなしいオゴデイくんが今、まっすぐな怒りに燃えている。
アォォォオオンッ!
ふぃん、とゲージが震える。レッドゾーンが近い。オゴデイくんが激しい動きを見せると、データが不安定になるみたい?
アタシの不安は的外れじゃなかったみたいで、シャリンさんが言った。
「ラフを戦闘から離脱させたわ。オゴデイと同時に動き回らせるのは不可能ね。コマンドに遅延が出るから、使い物にならない」
ってことは、このバトル、パワーヒッターがいなくなっちゃうわけだ。ラフさんの馬鹿力、頼りにしてるんだけどな。仕方ないか。
ジャラールが豪快に悪役笑いをした。
「ぐははははっ! オヌシら、ますます滅亡に近付いたようだな! 少ない手勢で、オレの魔術に太刀打ちできると思っているのか? 愚か者が! さあ、マーリドよ、連中を踏みつぶせ!」
言うだけ言って、ジャラールのホログラムが消える。
「セリフといい、笑い方といい、ほんっとに典型的な悪役キャラですよねー」
アタシは単純に呆れてただけ。ニコルさんは全然別のことを考えてた。
「サロール・タルのストーリー、まだ続くのか。確認してなかったけど、長編だったんだな。たぶん、ホラズム制覇の結末まで追うんだろう。とすると、次は首都サマルカンドを落とすだろ? ジャラールをインダス川まで追い詰めて、そこで……」
「おにいちゃんっ! マニアックな歴史ネタなんて、どーでもいいわよっ!」
シャリンさんじゃなく麗さんが、素のままで怒鳴った。アタシも、今は歴史の授業は聞かなくていいっす。
「ごめんごめん。わかってるよ。バトルに集中する」
ニコルさんはやんわり笑った。反省が感じられない。
ああもう、これだからマニアは。いや、物知りなのはニコルさんの胸キュンポイントではあるんだけどね、時と場所を選んでほしいんだよね。
パラメータボックスにカウントタウンが表示される。3・2・1、Fight!