「えーみーちゃん?」
「え?」
「ぼーっとしてたよ?」
「ごめんごめん」
 でもね、ほんとにもう、これ以上ないってくらい大きな予感があるんだもん。すっごくステキな冒険ができる予感。あ、ヤバい、顔がにやける。
 初生が笑顔をつくった。
「えみちゃんはいつも楽しそうだね。うらやましい」
 出ました、初生のふんわりスマイル。かわいいんだな、これが。小柄で細くて、髪はさらさらロング。うらやましいはこっちのセリフだー、って感じ。初生は正真正銘、正統派の美少女だ。
 ちなみに、あたしのルックスは至って地味。まぶたは奥二重だし、鼻はだんごだし。唯一のチャームポイントは、閉じてても自然と笑った形をした唇かな。ん? 誰も気にしてないって? しつれーいたしました。
 まあ、美少女に生まれつかなかったのを嘆いても仕方ないしね。あたしは初生の肩をポンと叩いた。
「あたしはいつも楽しいよー。人生、楽しんだもん勝ちでしょ!」
「そうだね」
「あたし、今は特に張り切ってるんだ。絶対、ニコルさんのお役に立つの!」
 抱え込んだ厄介な事情については、まだきちんと話してもらってない。昨日はログアウトまでの残り時間が少なかったし。
「ねえ、えみちゃん。訊きにくいんだけど……訊いていい?」
「ん?」
「ニコルさんのこと、好きになっちゃったの?」
「てへへ、そうかも」
「じゃあ、風坂《かぜさか》先生は?」
「好きだよ~」
「ふ、2人とも好きなの?」
「ダメ?」
「普通は、1人だけだと思う……」
 うっ。やっぱそう?
 風坂界人《かいと》先生は、ナースの授業のうち、介護実技を担当している。
 今年の4月、最初の授業で、あたしは風坂先生に一目惚れした。正確には「一耳惚れ」。風坂先生も、声が超カッコいいんだもん。少年系の役をする声優さんみたいなの。声に惹かれて姿を見たら、ルックスもナイスでした。恋に落ちないわけがない。
 でもさ、ほんとのこと言うと。
 あたしはすぐに「カッコいい!」って騒いだりするから惚れっぽいって思われがちなんだけど、実は恋愛初心者だ。ほんとに胸がときめいたのは、風坂先生が初めてだった。
 アニメやゲームのキャラを「カッコいい!」って言うときと、全然違った。ぎゅーっと胸が絞られる感じ。狭まった胸の中で、心臓がトクトクトクトク走ってる。喉元まで広がるくすぐったさに、声を上げてしまいそうになった。
 ああ、これが恋なんだなって、初めてなのにわかった。風坂先生のことを好きになったって確信した。だから今、ちょっと複雑かも。
「どっちも本物なんだよー」
 風坂先生のときと同じ胸の高鳴りを、昨日も感じちゃったんです。ニコルさんの声を聞いたとき。その姿を見たとき。これってどういう状況? あたし、浮気性?