アタシとニコルさんは、そのへんの兵士にジョチさんの居場所を訊いた。
「ジョチさまでしたら、ご自分のゲルにおられるはずですよ。そういえば、オゴデイさまがルラさまたちをお探しでした」
「オゴデイくん? こっちに来てたんだ?」
「チャガタイさまの軍から、先ほど到着されたんです。でも、様子が変だったんですよ。おどおどして焦ってる感じで」
「普段からおどおどキャラだと思うけど」
とにかく、ジョチさんのゲルに向かいつつオゴデイくんも探す、ってことになった。
目的は2つ同時に果たせた。ジョチさんのゲルのそばにオゴデイくんがいたんだ。確かに、さっき聞いたとおり、普段以上におどおどそわそわおろおろしてる。挙動不審だ。
「オゴデイくん、どしたの?」
アタシが声をかけたら、オゴデイくんはビクッと飛び上がった。
「ああ、ルラさんでしたか。ニコルさんもご一緒で。ほかのお2人はどちらに?」
「まだ来てないよ。でも、気にしないで。ニコルさんとアタシで話を聞いてあげるから」
オゴデイくんは肩を縮めながら、うつむいた。ん? キミ、実は意外と美少年?
「兄のゲルにお入りください。百聞は一見に如かずです」
オゴデイくんは入口のタペストリーをくぐって、ゲルに入っていった。ニコルさんが続く。そのとたん、ニコルさんは声をあげた。
「ぅわっ」
「ど、どうしたんですか!?」
アタシは慌ててゲルに飛び込んだ。
「うきゃあっ! 何この黒いもやもや!?」
ゲルの中は黒い霧で満たされていた。パラメータボックスをチェックする。毒性反応なし。でも、魔力反応ありまくり。
オゴデイくんが狼の耳をピクピクさせた。
「皆さんも感じますよね。兄をさいなむ悪夢の病の気配を」
「悪夢の病って?」
ゲルの奥でジョチさんが仰向けに倒れている。黒い霧が濃すぎてよく見えない。ジョチさんの体から霧が噴き出てるんだ。
ニコルさんがローブの袖から杖を取り出した。
「これはジャラールの魔術かな?」
オゴデイくんがうなずいた。
「そうだと思います。オレが到着したときには、すでにこの状態で……」
「え、オゴデイくんの一人称、オレなんだ? おとなしい系なのに意外」
うっかり、しょうもないことを言ってしまった。いかん、シャリンさんがいないと、緊張感がなくなる。
ニコルさんがアタシにリアクションしてくれた。優しすぎる。
「ボクの一人称と重複しないから、表記上、見分けやすいね」
「そういう演出効果かー」
「そのへんを地味にこだわる作者だからね」
ちょうどそのとき、アタシの後ろから声がした。
「陰気なことになってるわね」
アタシは振り返った。シャリンさんがオーロラカラーの髪を掻き上げた。もちろん、ラフさんも一緒にいる。
「シャリンさん! 間に合ってよかったです。ラフさんの状態、大丈夫ですか?」
「調整済みよ。この間みたいに、暴走しかけて震えたりはしないわ」
「暴走しかけてたんですか!?」
「あの後に解析したら、データが穴だらけになってた。本当に暴れていたら、このステージごと危うかったわね。でも、そんな不安定な状態も、ここで終わりよ。ジョチのAIからラフを引きはがすわ」
シャリンさんはまっすぐ、ジョチさんに向かって進んだ。その距離、あと1歩。
突然。
むぉぉぉぉ……ん。効果音とともに、歪み始める空間。黒い霧が渦巻く。フィールド「ジョチの帳幕《ゲル》」のCGが消える。
暗転して、一面の闇色。シャリンさんが舌打ちをした。
「ストーリーを進めてしまったみたいね。厄介だわ。手っ取り早く作業してしまいたかったのに」
黒い霧が晴れていく。
「ジョチさまでしたら、ご自分のゲルにおられるはずですよ。そういえば、オゴデイさまがルラさまたちをお探しでした」
「オゴデイくん? こっちに来てたんだ?」
「チャガタイさまの軍から、先ほど到着されたんです。でも、様子が変だったんですよ。おどおどして焦ってる感じで」
「普段からおどおどキャラだと思うけど」
とにかく、ジョチさんのゲルに向かいつつオゴデイくんも探す、ってことになった。
目的は2つ同時に果たせた。ジョチさんのゲルのそばにオゴデイくんがいたんだ。確かに、さっき聞いたとおり、普段以上におどおどそわそわおろおろしてる。挙動不審だ。
「オゴデイくん、どしたの?」
アタシが声をかけたら、オゴデイくんはビクッと飛び上がった。
「ああ、ルラさんでしたか。ニコルさんもご一緒で。ほかのお2人はどちらに?」
「まだ来てないよ。でも、気にしないで。ニコルさんとアタシで話を聞いてあげるから」
オゴデイくんは肩を縮めながら、うつむいた。ん? キミ、実は意外と美少年?
「兄のゲルにお入りください。百聞は一見に如かずです」
オゴデイくんは入口のタペストリーをくぐって、ゲルに入っていった。ニコルさんが続く。そのとたん、ニコルさんは声をあげた。
「ぅわっ」
「ど、どうしたんですか!?」
アタシは慌ててゲルに飛び込んだ。
「うきゃあっ! 何この黒いもやもや!?」
ゲルの中は黒い霧で満たされていた。パラメータボックスをチェックする。毒性反応なし。でも、魔力反応ありまくり。
オゴデイくんが狼の耳をピクピクさせた。
「皆さんも感じますよね。兄をさいなむ悪夢の病の気配を」
「悪夢の病って?」
ゲルの奥でジョチさんが仰向けに倒れている。黒い霧が濃すぎてよく見えない。ジョチさんの体から霧が噴き出てるんだ。
ニコルさんがローブの袖から杖を取り出した。
「これはジャラールの魔術かな?」
オゴデイくんがうなずいた。
「そうだと思います。オレが到着したときには、すでにこの状態で……」
「え、オゴデイくんの一人称、オレなんだ? おとなしい系なのに意外」
うっかり、しょうもないことを言ってしまった。いかん、シャリンさんがいないと、緊張感がなくなる。
ニコルさんがアタシにリアクションしてくれた。優しすぎる。
「ボクの一人称と重複しないから、表記上、見分けやすいね」
「そういう演出効果かー」
「そのへんを地味にこだわる作者だからね」
ちょうどそのとき、アタシの後ろから声がした。
「陰気なことになってるわね」
アタシは振り返った。シャリンさんがオーロラカラーの髪を掻き上げた。もちろん、ラフさんも一緒にいる。
「シャリンさん! 間に合ってよかったです。ラフさんの状態、大丈夫ですか?」
「調整済みよ。この間みたいに、暴走しかけて震えたりはしないわ」
「暴走しかけてたんですか!?」
「あの後に解析したら、データが穴だらけになってた。本当に暴れていたら、このステージごと危うかったわね。でも、そんな不安定な状態も、ここで終わりよ。ジョチのAIからラフを引きはがすわ」
シャリンさんはまっすぐ、ジョチさんに向かって進んだ。その距離、あと1歩。
突然。
むぉぉぉぉ……ん。効果音とともに、歪み始める空間。黒い霧が渦巻く。フィールド「ジョチの帳幕《ゲル》」のCGが消える。
暗転して、一面の闇色。シャリンさんが舌打ちをした。
「ストーリーを進めてしまったみたいね。厄介だわ。手っ取り早く作業してしまいたかったのに」
黒い霧が晴れていく。