3・2・1・Fight!
アリィキハが突進してくる。
「動きは遅いわね!」
アタシはアリィキハの前肢を踏み台にして跳び上がった。高速でコマンドを入力する。
“Wild Iris”
七連続の斬撃。アリィキハの鼻面に、うっすらと引っかき傷が付いた。
「あー、もうっ! また硬くてヒットポイントが高いってパターンっ?」
「まぶたや喉を狙えよ。まだしも皮膚が薄いはずだ」
ラフは双剣を両肩に背負ってアリィキハに突っ込んでいく。前肢の爪をくぐって、ふところへ。ピンク色の喉元に双剣を叩き付ける。
“chill out”
ガキン。
「前言撤回。やっぱ、喉も硬ぇ」
ニコルが口を尖らせた。
「ラフの馬鹿力でもダメかぁ」
ニコルは足下の雑草を摘み取って、杖で打った。細長い形をした雑草の葉っぱが槍へと姿を変えた。
キシャァァァッ!
アリィキハが咆吼した瞬間。
「そぉれっ!」
ニコルは雑草の槍を投げた。槍がアリィキハの舌に突き刺さる。
でも。
「効いてねぇぞ」
「魚の小骨みたいなもんかなぁ?」
まぶた、喉、口の中。弱そうなところを、繰り返し狙ってみる。
「ヒットポイントのゲージが減らないわね。長期戦覚悟よ」
攻撃要員は、アタシたち三人とイオ。
イオのナイフは、ネネの戦士らしく原始的だった。金属の刃は付いてない。ナイフの本体は木製。刃の部分には、サメの歯がびっしりとくくりつけられてる。切り裂くんじゃなくて、えぐる武器。
イオは、タカみたいな独特の動きで、アリィキハの尾に打ちかかる。ニコルがイオのAIに命令した。
「尻尾じゃ意味ないよ。こっちに合流して、頭を狙って」
「アタイに命令するんじゃないよ!」
啖呵を切りながら、イオはニコルの指示に従った。ニコルは遠隔攻撃で、イオは直接攻撃で、アリィキハのまぶたや鼻面、開いた口の中を襲う。
アタシとラフは、交互にアリィキハに接近した。喉元をしつこく攻め続ける。だんだん、傷が開いていく。時間はかかってるけど、無意味じゃないみたい。
アタシは一回、ラフは二回、アリィキハの前肢の一撃で、吹っ飛ばされた。すかさずクラが駆け寄ってきて、呪術で傷を治癒する。
でも。
「ワタシでは力不足です。皆さまの傷を塞ぐことはできますが、疲れを癒してさしあげることはできません。申し訳ない」
傷を塞ぐのは、ヘルスポイントの回復。疲れを癒やすのは、スタミナポイントの回復。つまり、クラの呪術を受けてもスタミナポイントは減ったままだ。
アタシはパラメータボックスのゲージを確認した。純粋な体力消費やスキル発動によって減ったスタミナポイントは、レッドゾーンが目前だ。このペースじゃ、アリィキハより先にアタシたちが動けなくなる。
「ラフ、ニコル! のんびりしてる場合じゃないわよ! スタミナ、かなり減ってる!」
「オレもさっき気付いたとこ。こんなペースじゃあ、らちが明かねえよな」
「ボクもヤバい。打てば当たるのが気持ちよくて、ガンガン魔法使ってた」
ラフはアリィキハから間合いを取った。
「本気出すよ。あんまりキレイな姿じゃないけど、勘弁してくれ」
ラフは目を閉じた。双剣を持つ両腕が下ろされる。
不穏な風がラフの足下から、ぶわりと湧いた。
まぶたが開かれる。まがまがしい赤が両眼にともっている。
「また呪いを発動するの?」
むき出しのお腹に、二の腕に、赤黒い紋様が燃える。燃えながら、紋様はじわじわと広がった。
猛獣の唸り声みたいな笑いがラフの口からこぼれた。牙が光った。双剣が軽々と振りかざされた。
「あ、ハはっ、はハハッ……! コントろール、どうナってンだヨ? 体のジユウがキかねェ……!」
ザラザラと濁った響きでつぶやいて、ラフは跳躍した。
二本の大剣は、まるでおもちゃだった。重量を無視した動き。ラフは、やたらめったらに大剣を振り回す。
「なんなのよ、あの動き……スキルも何も、あったもんじゃないわ」
ものの数秒で、アリィキハの舌が刎ね飛ばされた。アリィキハは絶叫する。
ラフは止まらない。アリィキハのまぶたが、鼻面が、喉首が、ズタズタに切り裂かれていく。
アタシは立ち尽くすしかない。
「援護に回る隙もないなんて」
ラフは、前回の呪いよりも激しく暴走してる。
ニコルはイオに防御を命じた。ニコル自身もバトルフィールドから下がる。
「ラフの攻撃力、ゲージが針を振り切ってる。理性のゲージはほとんどブラックアウト。スタミナが尽きるまで暴れ続けるね、これは。同時にヘルスがゼロにならないように気を付けとかないと、ほっといたらハジかれちゃう」
「そんなの、めちゃくちゃだわ」
アリィキハの前肢を、ラフは交差させた双剣で受け止めた。巨体の重みに、ラフのブーツが地面にのめり込む。
ラフの顔が歪んだ。赤い目が、紋様が、らんらんと燃える。ラフは牙をむいた。獣の声で吠えた。
アリィキハの前肢がスパッと飛んだ。
キシャァァァッ!
悲鳴。アリィキハが横倒しに倒れた。
「アハハははっハハはハッ!」
ラフは笑っている。
仰向いたアリィキハの喉を目がけて、ラフは双剣を振りかざして宙に跳んだ。
四人がかりで手こずっていたモンスターは、呪いを発動させたラフひとりの手で、あっという間に光になって消滅した。
アリィキハが突進してくる。
「動きは遅いわね!」
アタシはアリィキハの前肢を踏み台にして跳び上がった。高速でコマンドを入力する。
“Wild Iris”
七連続の斬撃。アリィキハの鼻面に、うっすらと引っかき傷が付いた。
「あー、もうっ! また硬くてヒットポイントが高いってパターンっ?」
「まぶたや喉を狙えよ。まだしも皮膚が薄いはずだ」
ラフは双剣を両肩に背負ってアリィキハに突っ込んでいく。前肢の爪をくぐって、ふところへ。ピンク色の喉元に双剣を叩き付ける。
“chill out”
ガキン。
「前言撤回。やっぱ、喉も硬ぇ」
ニコルが口を尖らせた。
「ラフの馬鹿力でもダメかぁ」
ニコルは足下の雑草を摘み取って、杖で打った。細長い形をした雑草の葉っぱが槍へと姿を変えた。
キシャァァァッ!
アリィキハが咆吼した瞬間。
「そぉれっ!」
ニコルは雑草の槍を投げた。槍がアリィキハの舌に突き刺さる。
でも。
「効いてねぇぞ」
「魚の小骨みたいなもんかなぁ?」
まぶた、喉、口の中。弱そうなところを、繰り返し狙ってみる。
「ヒットポイントのゲージが減らないわね。長期戦覚悟よ」
攻撃要員は、アタシたち三人とイオ。
イオのナイフは、ネネの戦士らしく原始的だった。金属の刃は付いてない。ナイフの本体は木製。刃の部分には、サメの歯がびっしりとくくりつけられてる。切り裂くんじゃなくて、えぐる武器。
イオは、タカみたいな独特の動きで、アリィキハの尾に打ちかかる。ニコルがイオのAIに命令した。
「尻尾じゃ意味ないよ。こっちに合流して、頭を狙って」
「アタイに命令するんじゃないよ!」
啖呵を切りながら、イオはニコルの指示に従った。ニコルは遠隔攻撃で、イオは直接攻撃で、アリィキハのまぶたや鼻面、開いた口の中を襲う。
アタシとラフは、交互にアリィキハに接近した。喉元をしつこく攻め続ける。だんだん、傷が開いていく。時間はかかってるけど、無意味じゃないみたい。
アタシは一回、ラフは二回、アリィキハの前肢の一撃で、吹っ飛ばされた。すかさずクラが駆け寄ってきて、呪術で傷を治癒する。
でも。
「ワタシでは力不足です。皆さまの傷を塞ぐことはできますが、疲れを癒してさしあげることはできません。申し訳ない」
傷を塞ぐのは、ヘルスポイントの回復。疲れを癒やすのは、スタミナポイントの回復。つまり、クラの呪術を受けてもスタミナポイントは減ったままだ。
アタシはパラメータボックスのゲージを確認した。純粋な体力消費やスキル発動によって減ったスタミナポイントは、レッドゾーンが目前だ。このペースじゃ、アリィキハより先にアタシたちが動けなくなる。
「ラフ、ニコル! のんびりしてる場合じゃないわよ! スタミナ、かなり減ってる!」
「オレもさっき気付いたとこ。こんなペースじゃあ、らちが明かねえよな」
「ボクもヤバい。打てば当たるのが気持ちよくて、ガンガン魔法使ってた」
ラフはアリィキハから間合いを取った。
「本気出すよ。あんまりキレイな姿じゃないけど、勘弁してくれ」
ラフは目を閉じた。双剣を持つ両腕が下ろされる。
不穏な風がラフの足下から、ぶわりと湧いた。
まぶたが開かれる。まがまがしい赤が両眼にともっている。
「また呪いを発動するの?」
むき出しのお腹に、二の腕に、赤黒い紋様が燃える。燃えながら、紋様はじわじわと広がった。
猛獣の唸り声みたいな笑いがラフの口からこぼれた。牙が光った。双剣が軽々と振りかざされた。
「あ、ハはっ、はハハッ……! コントろール、どうナってンだヨ? 体のジユウがキかねェ……!」
ザラザラと濁った響きでつぶやいて、ラフは跳躍した。
二本の大剣は、まるでおもちゃだった。重量を無視した動き。ラフは、やたらめったらに大剣を振り回す。
「なんなのよ、あの動き……スキルも何も、あったもんじゃないわ」
ものの数秒で、アリィキハの舌が刎ね飛ばされた。アリィキハは絶叫する。
ラフは止まらない。アリィキハのまぶたが、鼻面が、喉首が、ズタズタに切り裂かれていく。
アタシは立ち尽くすしかない。
「援護に回る隙もないなんて」
ラフは、前回の呪いよりも激しく暴走してる。
ニコルはイオに防御を命じた。ニコル自身もバトルフィールドから下がる。
「ラフの攻撃力、ゲージが針を振り切ってる。理性のゲージはほとんどブラックアウト。スタミナが尽きるまで暴れ続けるね、これは。同時にヘルスがゼロにならないように気を付けとかないと、ほっといたらハジかれちゃう」
「そんなの、めちゃくちゃだわ」
アリィキハの前肢を、ラフは交差させた双剣で受け止めた。巨体の重みに、ラフのブーツが地面にのめり込む。
ラフの顔が歪んだ。赤い目が、紋様が、らんらんと燃える。ラフは牙をむいた。獣の声で吠えた。
アリィキハの前肢がスパッと飛んだ。
キシャァァァッ!
悲鳴。アリィキハが横倒しに倒れた。
「アハハははっハハはハッ!」
ラフは笑っている。
仰向いたアリィキハの喉を目がけて、ラフは双剣を振りかざして宙に跳んだ。
四人がかりで手こずっていたモンスターは、呪いを発動させたラフひとりの手で、あっという間に光になって消滅した。