今年は、西暦二〇五二年。SNSを利用した犯罪が相次いで大量の逮捕者が出たのは、二十七年前のこと。あたしが生まれる十年前だった。
 そのときの法的措置はとても厳しかった。粛清っていっていい。インターネットを活用したビジネスは潰滅。コンピュータゲーム産業も、もちろん完全にすたれた。
 以来二十五年間、市場に出回るゲームは、すべてオフラインだった。インターネット回線による通信システムは、全面禁止。家庭用ハードウェアと家庭用ソフトウェアで完結する「ハコ型」のみOK。
 特別認可オンラインRPG『PEERS' STORIES《ピアズ・ストーリーズ》』が配信解禁となったのは二年前のことだ。

LOG IN?
――YES

 ピアズは、オンラインゲーム業界再生のための第一歩。二度と犯罪を蔓延させてはならないから、管理体制は徹底している。
 オンライン本編のプレー時間は、一日四時間まで。最初のダウンロードにだけ料金が必要で、それ以外の本編での課金は、制度そのものが存在しない。
 システムエラーが少ないのもピアズの特徴。プロのエンジニアが全力でサポートしてるらしい。ピアズ内の治安維持は法律系のエキスパートが担当してる。
 基盤産業の希薄な日本が生き残りをかけて展開する国家プロジェクトが、コンピュータゲームだ。外国に先駆けてオンラインゲームを解禁したのも、その一環。

PASSCODE?
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OK! ALOHA, SHA-LING!

 画面の中に現れたのは、アタシ。オーロラカラーのツインテールを揺らす少女剣士、シャリンだ。
 あたしは唇の両端にリップパッチを着けた。リップパッチはマイクの集音器であり、同時に、口元の表情をアバターと連動させる装置でもある。あたしが笑えば、シャリンも笑う。
 戦闘コマンドは、音楽系ゲームと同じシステムだ。かなり変わってる。ピアズの開発者の趣味らしいけど。
 バトルに使うのは、八つの矢印。上・下・左・右の四方向と、それを四十五度回転させた斜め四方向。
 バトルが始まると、画面手前に小ウィンドウが開かれる。リズムとフレーズに合わせて矢印が降ってくる。小ウィンドウの下にある「ヒットライン」に達する瞬間、タイミングよくコマンドを入力する。
 リズムの正確性が大事なの。スキルが成功するか失敗するか、どれだけの威力を発揮するか、それを決定するのはリズム感と指先のテクニック。
 高度なスキルを発動させるには、高度なテクニックが必要になる。初歩的なスキルはBPM120。つまり行進曲のスピード。上達しても、大抵のユーザの限界はBPM220くらい。それ以上になると、もう矢印を目で追えない。
 あたしの視覚は人並み外れている。特異高知能者《ギフテッド》としての能力だ。あたしなら、BPM400のロングフレーズも完璧に視認できる。もうすぐBPM480の新スキルも出るんだって。楽しみ。
 手慣れたコマンドを入力すると、シャリンの剣が鮮烈な光を発した。オーロラカラーの髪が、キラキラと、ひるがえる。ローズピンクの目が輝いて、小さな唇が口角を上げた。
 跳躍。七閃する剣光。
“Wild Iris”
 うん、いつもながら調子は上々。
 では、いざピアズの世界へ。あいつらが待つ、冒険の島へ。