「ちょっと待って!」と、そこで石川君がストップをかけてきた。「もしかして俺も疑われているの?」

「もちろんよ」と私は頷く。石川君は体育を見学していたから、有力な容疑者の一人だ。

「怪しい人は全員潰していかないと」

 石川君は目を丸くして口をぱくぱくとしていたけれど、私と朋ちゃんと遠野君の顔を見回してからハアっと一つため息を吐いた。

「それなら、証明は簡単だよ」と石川君は言った。

「証明は簡単?」
「ああ。俺は体育の時間、山下さんと一緒に見学していたから。山下さんに聞いてもらえば俺が一度も抜け出してないことはわかると思う。山下さんも一度も抜け出さなかった」
 
 私は石川君の話を聞いて教室を見渡した。教室の窓際でお喋りをしていた山下さんを見つけて早速事情聴取へと向かう。

「山下さん」
「なあに、みんなで?」

 山下さんは私たちが4人ずらずらと連なって聞きに行ったので何事かと驚いていた。それでも、一昨日の体育の時間のことを聞くと、すんなりと思い出して答えてくれた。

「あの日なら、確かに見学していたわ。私も石川君も一度も抜け出さなかったわ」

 石川君は山下さんの答えを聞いてホッとしたような顔をした。やっぱりなんだかんだで疑われているのが晴れて安心したのだろう。
 
 ここで私は考えた。

 山下さんと石川君はお互いにアリバイを証明し合っている。お互いに共謀すればアリバイ工作も出来ないこともない。けれど、私は今日突然石川君にあの日のことを聞いた。なので、少なくとも今日は2人にはアリバイ工作の相談をする暇はなかったはずだ。

 では事前に山下さんと石川君が打ち合わせていた可能性はないか?

 これも私はすぐに否定した。だって、どちらかが犯人だったとしても、2人のうち犯人でない方がアリバイ工作に協力するメリットが何もないもの。2人がずっと体育の時間に座って見学していたと考えるのが一番自然だ。

「これで石川君と山下さんはシロだね」

 私はシャーペンをカチカチと鳴らすと、石川君と木下さんのところにバツ印をつけた。残るは遠野君と飯田君だ。教室を見渡すと、飯田君は教室の入り口近くで友達の牧多君とふざけ合っていた。私は早速飯田君のところに向かった。

「飯田君。ちょっといい?」