渦中の遠野君に視線を移すと、何人かの男子生徒に取り囲まれているところだった。草壁に謝れ、という声が聞こえる。この声は水野君だ。遠野君はじっと黙り込んで俯いていた。

 その日、遠野君は休み時間のたびにクラスの男子生徒から取り囲まれて因縁をつけられていた。遠野君は変わらず下を向いて黙っている。なんだかその様子がいじめの現場を見ているようで、私は胸にモヤモヤが広がるのを感じた。

「ねえ、朋ちゃん。本当に遠野君がバトマジカードを取ったのかな?」

 下校途中、私は胸のモヤモヤを朋ちゃんに相談した。朋ちゃんも同じく引っ掛かりを感じていたようで、大きく頷いた。

「なんか引っ掛かるよね」
「うん。遠野君がそんなことするとは思えないんだよね」
「これは、事件の真相を探るしかありませんな」
UMA(ユーマ)探偵団、いよいよ始動しますか?」

 朋ちゃんはちょっとだけワクワクしたように目を輝かせ、にやりと口の端を上げる。

 UMA探偵団。

 それは、人気の少年少女探偵シリーズの小説に憧れて密かに私達が結成した探偵団だ。馬頭小学校の『馬』の字からもじって名付けた。
 事件発生を今か今かと待ち構えていたけれど、いよいよそのときでは?

 さっそく、私と朋ちゃんは遠野君が真犯人なのかを探ることにした。
 朋ちゃんの家に寄って部屋のローテーブルに向かい合うと、無地のノートを開く。まず、朋ちゃんにも確認してもらいながら、その日のことを朝から振り返ってまとめようと思う。

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【朝8時頃】 
 私はいつものように幼稚園からのお友達である朋ちゃんと小学校に登校した。途中、クリーニング屋さんの前で『野良猫にエサをあげないで下さい。野良猫が増えて困っています』と書いてある張り紙を見つけた。特にいつもと変わったことはなかった。

【朝8時15分頃】
 学校に到着。校門に副校長先生が立っていて挨拶してくれた。教室で、草壁君が「昨日、バトマジチョコスナックを買ったらレアな魔獣が当たった」とバトマジカードを見せながらクラスメイトに自慢しているのを見た。

【1時間目】
 算数。チャレンジ問題で時計算というのをやった。長針と短針が重なるのは何時かという問題だけど、これって将来役に立つ日はあるのかな?