私のお願いに草壁君は怪訝な顔をした。

 バトマジカードと漢字辞典は一見して全く関係がない。けれど、佐藤先生が無言で頷いて見せたので草壁君も渋々といった様子で漢字辞典を机の中から出して、その上に置いた。

「それ、開いてみてくれる?」

 私のお願いに草壁君が漢字辞典をケースから出してペラペラとめくり出すと……。

「あった……」

 私の予想したとおり、漢字辞典の間にバトマジカードが挟まっていたのだ。
 呆然とする草壁君を見つめ、私は口の端を上げる。

 私の推理はこうだった。

 あの日、容疑者として上がった4人のクラスメイト達にはいずれもアリバイがあった。ならば、最初からバトマジカードは盗まれていないのではないかというものだ。

 けれど、あの日の草壁君の様子からバトマジカードがなくなった演技をしているとも思えなかった。となると問題になるのは消えたバトマジカードの行方だ。

 あの日、中休みの後は国語だった。国語では四字熟語を調べるために漢字辞典を各自使用した。私はその時に草壁君は無意識に持っていたバトマジカードを栞がわりに挟んでそのまま忘れていたのではないかと考えたのだ。

 バトマジカードをみんなで捜したとき、机の中のものは全部だしたので当然漢字辞典も出した。でも、漢字辞典をケースから出して中までは確認しなかった。

 これはある種の賭だった。バトマジカードが出てこない可能性もあったので、予想通りバトマジカードが出てきたことに私は心底ホッとした。

「遠野、ごめん」

 バトマジカードを握り締めて暫くの放心していた草壁君は、小さく頭を下げると遠野君に謝罪した。

「…………。俺もごめん」

 その様子を見ていた水野君が、続いて謝罪する。遠野君は「疑いが晴れたならいいよ。また仲良くして欲しい」と嬉しそうにはにかんだ。

 学級会ではそのあと、保護した子猫をどうするかという話し合いをした。

 最近、近所で野良猫が増えて住人の人が困っているので学校の倉庫で飼うのは駄目だと先生は言った。
 結局みんなで里親さがしをすることになって、その間は副校長先生が子猫を預かることになった。

 そして最後に、『学校に必要ないものは持ってきてはいけません』とクラス全員が注意された。『必要ないもの』にはもちろんバトマジカードも含まれる。

    ◇ ◇ ◇