飯田君と牧多君は2人とも私の言葉に頷いた。

「皆さんも知っているとおり、ここ5年2組の教室は本棟3階、体育館は外です。牧多君と分かれた飯田君が本棟の出口から3階の奥にある5年2組まで戻ってきてカードを盗み、始まりの挨拶までに校舎の外にある体育館に現れる。これが困難なことは皆さんも想像がつくと思います。つまり、飯田君はシロです」

 朋ちゃんが『飯田君』の横にバツを入れる。飯田君もホッとしたようは表情を浮かべた。残る名前は『遠野君』だけだ。みんなが静まり返って私の推理に注目していた。

「遠野君ですが、給食が終わると全体の片付けを手伝わないで一人だけ抜け出しています。どこに行ったのですか?」

 私が質問を投げかけると、遠野君は片手をあげてから立ち上がった。

「給食の後、校舎裏の屋外清掃用の倉庫に行っていました。子猫を2匹保護したのでイカフライを持って様子を見にいきました」
「嘘ついているんじゃねーの?」

 遠野君の発言が終わるや否や、水野君が水を差してくる。私はそれを制止して、「確かに子猫が2匹いることは先ほどの昼休みに確認してきました」と言った。

 水野君はなおのこと不服そうに「三田は遠野のこと好きだから庇っているんじゃないの?」と言ってきた。
 これには流石の私もかちんときたけれど、それより先に副校長先生が動いてくれた。

「遠野君は確かにあの日のあの時間に校舎裏付近に居たよ。それは私が保証しよう」
 
 副校長先生の言葉に水野君もぐっと黙り込んだ。私はホッとして話を再開する。

「つまり、給食後に遠野君は校舎裏の外部清掃用の倉庫付近で子猫にイカフライをあげていました。そう考えると、物理的にバトマジカードを盗ることはできません」

 朋ちゃんは最後に残っていた遠野君の横にバツ印を付ける。これで容疑者として上がった4人全員にバツ印が付いた。

「じゃあ、俺のバトマジカードは誰が盗ったんだよ!」

 大きな声をあげたのは今回のバトマジカード事件の被害者とされる草壁君だ。草壁君は未だにバトマジカードが戻ってこないと真っ赤になって怒っている。

「それなんだけど、草壁君の漢字辞典を見せて貰ってもいいかな?」
「漢字辞典?」